上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 57骨髄老化による動脈硬化・心不全発症機序の解明骨髄髄老化化にによよるる動動脈脈硬硬化化・・心不不全全発発症症機機序序のの解解明明 自自治治医医科科大大学学 分分子子病病態態治治療療研研究究セセンンタターー 人人類類遺遺伝伝研研究究部部//循循環環器器内内科科 自治医科大学 分子病態治療研究センター 人類遺伝研究部/循環器内科2014 年、65 歳以上の“健常な”高齢者の 10%に、悪性腫瘍関連の遺伝子異常(DNMT3A、TET2、ASXL1、JAK2など)をもつ細胞が選択的に増殖する、クローン性造血(CHIP)が報告され、CHIP は 30~40%死亡率を増加させるが、その原因は白血病よりもむしろ心血管疾患であることが示された。したがって、骨髄の老化は、現代日本における2 つの主要死因である、悪性腫瘍と心血管疾患の両方に悪影響を与えているといえる。報告者はマウス老化造血幹細胞が CHIP の前提となる DNA 損傷修復能低下を示すが、CHIP そのものはおこさないこと、また、老化骨髄では微小環境の炎症性シグナルがゲノムおよびエピゲノム制御に悪影響を与えることを明らかにしてきた。本研究では、骨髄老化がどのように動脈硬化・心不全の発症・増悪に関与するのかを明らかにするためにさらに解析を進めた。 造血幹細胞老化の研究の難しさの一つに、老化個体における造血幹細胞の不均一性がある。つまり、老化個体の中にも比較的機能の保たれている造血幹細胞と機能の低下している造血幹細胞があり、従来の研究ではそれらを同時に まとめて解析していたため、造血幹細胞の老化による変化を正しくとらえきれないという問題があった。本研究では まず老化造血幹細胞の不均一性を克服すべく、若年および老化造血幹細胞のシングルセル解析を行った。その結果、細胞内小器官の恒常性維持機構であるオートファジー・マイトファジーの活性は老化造血幹細胞で低下しているものの、老化造血幹細胞の中で、ミトコンドリア量が多いものと少ないものを比較すると、ミトコンドリア量の多い造血幹細胞の方が高い自己複製能を保持していることがわかった。さらに、ミトコンドリア量の多い老化造血幹細胞は ミトコンドリア量の少ない老化造血幹細胞より ATP 産生能が高い一方でミトコンドリア膜電位は低く制御されており、活性酸素種の過度な蓄積も認められなかった。このような造血幹細胞の不均一性をきたす原因の探索を進めたところ、ミトコンドリア量の多い老化造血幹細胞に特徴的な表面マーカーとして GPR183 という蛋白が同定された。GPR183は老化造血幹細胞に特異的なマーカーである一方で、老化造血幹細胞内で GPR183 高発現造血幹細胞と GPR183 低発現造血幹細胞に分類し両者の機能を比較すると、前者の方が幹細胞としての機能を保っているという二面性を 有している。GPR183 は、コレステロール代謝産物である 7α,25-ヒドロキシコレステロールの受容体であり、循環器疾患との関連がすでに報告されているため、骨髄老化と循環器疾患の関連を示すものとして今後解析を進めていきたい。 また、本研究では老化造血幹細胞の研究を効率よく進めるため、造血幹細胞の外的因子制御によって骨髄老化促進 モデルを作成することも目的の一つとして掲げていた。喫煙者に CHIP が多いことにヒントを得、加熱式タバコ煙を12 週間負荷するモデルを構築した。通常タバコ煙についての既報と同様に好中球系細胞の有意な増加と B 細胞系列の分化抑制を認め、タバコ煙負荷後の造血幹細胞の RNAseq により、タバコ煙による各種の遺伝子変化が明らかに なった。しかし、加熱式タバコ煙が造血幹細胞の老化を促進したとまではいえない変化であり、今後、負荷条件の調整が必要と考えられた。 本研究では、ヒト検体を用いた解析も目的の一つとして掲げていた。心臓の間質にアミロイド線維が沈着し、心臓の形態的・機能的異常をきたす病態を心アミロイドーシスとよぶ。高齢者の心不全の約 20%弱が心アミロイドーシスによるとも推計され、老化に伴う ATTRwt 心アミロイドーシスは心臓老化の最終像ともいえる。我々はヒト心筋生検サンプルのトランスクリプトーム解析にて、予備検討の段階ではあるものの、NPPA などの心不全関連遺伝子のみならず、他臓器のアミロイドーシスで関連が報告されている遺伝子の発現亢進や、糖代謝調節関連遺伝子の発現亢進を確認している。これらの変化の一部は骨髄由来マクロファージの老化による機能低下によるものと考え、ヒト生検サンプル側からも骨髄老化がいかに心血管疾患の増悪につながるかについての解析を進めている。 本研究は骨髄老化がいかに心血管疾患の発症・増悪につながるかについて解析することを想定したものであったが、上記の GPR183 についての解析の過程で、心血管疾患が GPR183 の発現亢進を通じて造血幹細胞の老化に影響を 与えるという、逆方向の作用の可能性も報告者は視野にいれることとなった。これは骨髄老化と心血管老化の老化連関とも呼ぶべき病態であり、長期的な検討課題としたい。さらに長期的には、骨髄細胞の老化を解明する過程で得られた知見は、骨髄以外の各種組織の幹細胞の老化研究に応用可能であると考えられ、血液疾患・循環器疾患に限らず各種 臓器の疾患で、老化関連疾患に罹患する可能性の高い個人を特定する個別化最適医療への応用も考えていきたい。 松松村村 貴貴由由 松村 貴由57
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