上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 45生生理理的的なな咀咀嚼嚼がが認認知知機機能能維維持持ににかかかかわわるる分分子子基基盤盤のの解解明明 生理的な咀嚼が認知機能維持にかかわる分子基盤の解明東東北北大大学学 大大学学院院歯歯学学研研究究科科 病病態態ママネネジジメメンントト歯歯学学講講座座 歯歯科科薬薬理理学学分分野野 東北大学 大学院歯学研究科 病態マネジメント歯学講座 歯科薬理学分野【【研研究究のの背背景景とと目目的的】】高齢社会において、認知症の予防・治療法の開発は極めて重要な課題である。特に、 アルツハイマー病は認知症の約 6 割を占めるが、根本的な治療法は確立されていない。近年、咀嚼機能の低下が認知 機能の低下や認知症の発症と関連することがコホート研究や動物実験により示されているが、その分子病態生理学的 メカニズムは未解明である。我々は、歯根膜線維芽細胞に咬合を模した機械刺激を加えることで Wnt5a の産生が増加し、三叉神経節細胞の突起形成を促進することを見出した。さらに、近年の報告では、アルツハイマー病モデルマウスにおいて抜歯により海馬 CA1 領域の神経細胞数の減少やアミロイドβの蓄積などの変化が認められた。そこで本研究では、咬合異常モデルマウスを作製し、歯根膜で産生される Wnt5a などの液性因子を介して生理的咀嚼刺激が中枢神経系の可塑性維持や神経変性の抑制に関与するメカニズムを明らかにし、咀嚼機能を介した認知症予防の新たな戦略構築を目指した。 【【方方法法】】ラット歯根膜線維芽細胞(rPDL 細胞)に周期的機械刺激を加え、液性因子の産生変化を ELISA 法で評価 した。また、Wnt5a の産生に関与する機械センサー候補として、TRPV2 および TRPV4 の遺伝子を siRNA により 抑制し、Wnt5a の産生量への影響を検討した。さらに、マウス三叉神経中脳路核(Me5;歯根膜からの機械刺激を 伝える一次感覚神経の細胞体が中枢内に存在する、解剖学的に特異な神経核)神経細胞を培養し、rPDL 細胞の機械 刺激上清を培地に添加し、上清の神経突起伸展への影響を検討した。併せて、抜歯による口腔機能低下モデルマウスを作製し、Me5領域における Wnt5a 量を定量した。 【【結結果果・・考考察察】】機械刺激を加えた rPDL 細胞からは Wnt5a が有意に多く分泌され、その上清は Me5 神経細胞の神経突起の発芽・伸長を有意に促進した。これらの効果は抗 Wnt5a 抗体の添加により消失し、Wnt5a の関与が示唆された。さらに、TRPV2 または TRPV4 をノックダウンした rPDL 細胞では、機械刺激による Wnt5a 産生が有意に低下した。これにより、TRPV2 および TRPV4 が Wnt5a 産生のメカノセンサーとして機能している可能性が示された。加えて、マウス臼歯抜歯後の Me5 では Wnt5a 量が対照群に比べて有意に減少し、免疫染色においても、海馬領域にて、口腔 機能低下マウスでは Wnt5a が減少し、神経細胞数も減少することを明らかにした。以上の結果より、歯根膜細胞は 機械刺激に応答して Wnt5a を分泌し、これが Me5 神経細胞の突起伸長・分岐や維持に関与していることが示唆され、咀嚼は栄養的側面以外に咬合圧によって産生された口腔組織由来因子を介して中枢神経の生存・維持に寄与することが明らかになった。 【【発発表表】】 1) 2025 年 3 月 AAPW2025、ポスター発表 2) 2024 年 9 月 第 75 回 日本薬理学会北部会 機械刺激によって歯根膜から産生される Wnt5a の神経可塑性および認知機能における重要性 若若森森 実実 若森 実45
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