上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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1カルボニルストレスに着目した精神疾患発症機序の解明〇〇大学 〇〇科新井 誠上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 【【背背景景】】パーキンソン病(PD)は、中脳から線条体に投射するドパミン神経の脱落・変性によって引き起こされる 神経変性疾患であり、日本における患者数は約 28.9 万人と報告されている(令和 2 年度 厚生労働省統計)。患者の 多くは 65 歳以上の高齢者であることから超高齢社会を迎えた日本にとって、PD の予防法および根治治療法の確立は、患者本人の生活の質(QOL)の向上や介助に携わる患者家族および医療従事者の負担軽減の観点からも喫緊の課題と なっている。大多数の患者(90%以上)は遺伝的背景を伴わない孤発性の患者であり、その発症要因として老化による脳の恒常性の破綻や環境因子などが指摘されているが、現在においても根本的な原因は不明のままである。 36脳脳老老化化にに伴伴っってて顕顕在在化化すするる病病変変タタンンパパクク質質のの理理解解とと制制御御 脳老化に伴って顕在化する病変タンパク質の理解と制御同同志志社社大大学学 研研究究開開発発推推進進機機構構 同志社大学 研究開発推進機構PD の発症要因の一つとして、凝集型α-シヌクレインが、プリオンと類似した様式を取りながら脳内を広く伝播し、凝集および蓄積することが知られており、脳の広範囲で見られるα- シヌクレインの病変、すなわち シヌクレイノパチーはドパミン神経を含む広範な神経障害の要因と考えられている。これらの背景から α-シヌクレインの脳内伝播の分子機構を詳細に理解することは、加齢に伴う脳の恒常性の破綻をどのように改善するかという問いに対して、健康寿命の延伸につながる基盤的な知見を得られると考えられる。 【【目目的的】】ヒト iPS 細胞から脳領域特異的な脳オルガノイドを作製し、神経回路の変性が引き起こす神経変性疾患(特にPD やレビー小体型認知症)の分子病態を再現し、その病態を詳細に理解するための研究リソースを開発する。また、プリオン様の脳内伝播様式を示すα-シヌクレインタンパク質に着目し、上記で作製した脳オルガノイドを用いて、 α-シヌクレインタンパク質の脳の領域間伝播とそれに伴う脳病変を再現し、その分子病態のメカニズムについて 明らかにする。 【【方方法法】】健常人ヒト iPS 細胞から脳オルガノイドを分化誘導し、免疫染色、bulk RNA-seq、scRNA-seq および カルシウムイメージングを用いてその特性を解析した。さらにα-シヌクレインタンパク質を誘導性に強制発現する ヒト iPS 細胞を樹立し、シヌクレイン病態の解析を進めた。 【【結結果果】】免疫染色法を用いてヒト iPS 細胞から誘導した脳オルガノイドを解析したところ、脳の標的領域特異的な転写因子群を高い割合で発現していることが明らかとなった。さらに未分化 iPS 細胞から脳オルガノイドへの分化誘導 過程について時系列に沿ってサンプリングをし、RNA-seq による詳細なトランスクリプトーム解析を実施したところ、本分化誘導で得られた神経細胞は、脳の発生過程の時系列と同様の遺伝子発現プロファイルを示すことが明らかと なった。また誘導後期の脳オルガノイドについて神経マーカーを用いて免疫染色を行ったところ神経軸索の密な伸長が観察された。また作製した脳オルガノイドの機能的な解析として、Fluo-4/AM を用いたカルシウムイメージングを実施したところ、脳オルガノイドが発する自発的な神経活動を観察することに成功した。脳オルガノイドを構成する細胞種を詳細にクラスタリングするため scRNA-seq を実施し、約 15,000 細胞についてデータを取得することにも成功した。 次に、PD 病態を再現できる細胞モデル樹立することを目的として、α-シヌクレインタンパク質を任意のタイミングで強制発現できるヒト iPS 細胞の樹立を行った。PiggyBac ベクターを用いて、ドキシサイクリン(DOX)添加時に α-シヌクレインを発現するカセットを iPS 細胞に導入した。導入後、薬剤選択を行い、目的クローンの取得に成功 した。この細胞について詳細に解析を進めたところ、DOX 添加後に高い割合でα-シヌクレインタンパク質を発現することが確認できた。またこの細胞から脳オルガノイドを分化誘導したところ、誘導効率は起源細胞と同様の分化傾向を示すことが確認できた。さらに脳オルガノイドに誘導したのち、DOX を添加しα-シヌクレインタンパク質の発現を 誘導したところ、およそ 3 割の細胞においてα-シヌクレインタンパク質が発現していることが明らかとなった。 【【考考察察】】本研究では、当初の計画通りヒト iPS 細胞から脳オルガノイドを誘導し、その特性を明らかにすることに成功した。さらに、病態解析を進める上で必要となる研究リソースの確立も達成することができた。今後はこれらの リソースを活用して、加齢に伴う神経変性や病態の再現研究を進める予定である。本研究は、加齢に伴う脳の恒常性の破綻をどのように改善できるかという課題に対して、解決策を示す一助となる可能性があり、得られた知見を発展 させることにより、将来の新規治療標的の探索に資する基盤になると考えられる。 36西西村村 周周泰泰 西村 周泰

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