上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 35脊脊髄髄小小脳脳失失調調症症のの病病態態診診断断法法開開発発 脊髄小脳失調症の病態診断法開発近近畿畿大大学学 ラライイフフササイイエエンンスス研研究究所所 近畿大学 ライフサイエンス研究所脊髄小脳失調症 3 型(SCA3)は、小脳や脊髄の神経細胞が変性脱落し、運動失調症状を呈する顕性遺伝性神経変性疾患である。原因は、Ataxin-3 遺伝子の翻訳領域内における 3 塩基シトシン-アデニン-グアニン(CAG)繰り返し配列の異常伸長である。3 塩基 CAG はアミノ酸のグルタミンをコードするため、異常 Ataxin-3 遺伝子からは、異常伸長 したポリグルタミン鎖を分子内に持つ異常なタンパク質(ポリグルタミンタンパク質)が翻訳される。ポリグルタミンタンパク質は構造が不安定で凝集性が高く、細胞内で凝集・異常蓄積することにより細胞毒性を発揮するといわれて いる。現在までに、異常 Ataxin-3 遺伝子やその翻訳産物であるポリグルタミンタンパク質の凝集形成を標的とした 治療法開発が進められており、そのいくつかは SCA3 患者を対象とした臨床試験が行われている。その一方で、SCA3病態を反映して変動する客観的指標はないため、このような新規の治療法の有効性を評価することが困難な状況にある。そこで我々は、SCA3 の病態診断に資する血液由来生化学バイオマーカーの開発を目指して研究を行った。我々は以前、SCA3 モデル動物の血液エクソソームの網羅的プロテオーム解析を行い、疾患群で分泌増加しているタンパク質群を 同定した。そこで本研究では、特に顕著な増加が見られたタンパク質 3 種に注目し、患者血液において実際に変動が 見られるかについて検討を行った。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)バイオバンクより供与いただいた SCA3患者血液、非変性疾患患者血液(コントロールとして使用)からエクソソーム画分を超遠心法により精製し、バイオ マーカー候補であるタンパク質 3 種についてウエスタンブロットにより検出、定量評価を行った。NCNP バイオ バンク血液検体から精製したエクソソーム画分のウエスタンブロット解析の結果、タンパク質 3 種のうちの 1 種 (タンパク質 A)が SCA3 患者血液で増加していることがわかった。興味深いことに、SCA3 患者血液における タンパク質 A 量は、CAG リピート長および疾患重症度と高い相関が認められた。また、CAG 繰り返し配列の異常 伸長が原因で発症する別のポリグルタミン病においてはタンパク質 A の増加は認められなかったことから、 タンパク質 A の変動は SCA3 特異的と考えられる。一方、他のタンパク質 2 種については SCA3 患者における増加は認められなかった。培養細胞系を用いた検討では、異常 Ataxin-3 を発現する細胞においてタンパク質 A の エクソソーム分泌増加が確認された。また、顕微鏡観察実験により、異常 Ataxin-3 を発現する細胞では、Ataxin-3 の凝集、異常蓄積が観察されるが、タンパク質 A はこの凝集体と共局在することが明らかとなった。したがって、 タンパク質 A は異常な Ataxin-3 を発現する細胞において、SCA3 分子病態と関連して細胞外へとエクソソーム分泌 されるタンパク質であると考えられる。以上から、本研究において SCA3 患者血液エクソソームで特異的に増加するタンパク質 A を同定した。今後、タンパク質 A の SCA3 患者における変動を、別のコホートを活用してより大規模に検証するとともに、疾患特異性についても詳細に調べる予定である。また、我々は以前、アミノ酸の一種であるアルギニンが、異常タンパク質の凝集を抑制することを見いだしている(Minakawa et al, Brain 2020)。我々が保有する SCA3ノックインマウスに凝集阻害薬アルギニンを投与し、タンパク質 A の治療介入に対する変動性を 明らかにする。以上からタンパク質 A の SCA3 病態診断バイオマーカーとしての早期の確立を目指す。最後に本研究をご支援頂きました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます。 【【発発表表】】 1) 2024 年 5 月 第 65 回日本神経学会学術大会、ポスター発表 2) 2024 年 7 月 NEURO2024、ポスター発表 武武内内 敏敏秀秀 武内 敏秀35

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