上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 27新新たたなな男男性性避避妊妊薬薬開開発発のの基基盤盤ととななるる精精子子成成熟熟機機構構のの解解明明 新たな男性避妊薬開発の基盤となる精子成熟機構の解明自自然然科科学学研研究究機機構構 基基礎礎生生物物学学研研究究所所 名古屋大学 環境医学研究所【【背背景景・・目目的的】】世界的な人口問題や個人のライフデザインの観点から、生殖の適切な制御が求められている(国連人口基金 世界人口白書 2021)。現在普及している避妊法の多くは女性に依存しており、性差による不公平性が指摘されている。男性避妊薬の開発は、避妊手段の多様化とジェンダー公正の観点から重要である。これまで主に精巣での精子 形成が研究対象とされてきたが、その過程を標的とすることは精子形成異常を引き起こす懸念があり、生殖毒性の観点からも望ましくない(Chatani, 2009)。したがって、従来の戦略に代わる新たな設計パラダイムが必要である。 精巣で形成された精子は未成熟で、精巣上体を通過する過程で受精能を獲得する。この成熟過程の分子機構は不明な点が多いが、研究代表者は近年、精巣由来の分泌タンパク質 NELL2 および NICOL が精巣上体に作用する新規 シグナル「ルミクリン」を発見し、これが精巣上体の機能分化と精子成熟を上位から制御することを明らかにした(Kiyozumi et al., Science 2020; Nat Commun. 2023)。本研究では、ルミクリンシグナルを中心に精巣上体の制御 機構を解明し、男性避妊薬開発に向けた新たな分子標的と設計原理の確立を目指した。 【【方方法法・・結結果果】】ルミクリン制御因子 NICOL の合成法確立を目的に、全長ポリペプチドを化学合成し、適切な溶媒条件でフォールディングを誘導した。その結果、得られた収束体の一つが、組換え NICOL と同様の NELL2 結合活性を 示した。活性型 NICOL の SS 結合構造を解析し、それを再現する合成条件を確立した。また、組換え体の SS 結合 構造との一致も確認されたことから、活性を有する NICOL の特異的合成法を確立した。 さらに、精巣上体におけるルミクリンと性ステロイドによるエンドクリンの制御機能としての役割を比較するため、NELL2 欠損マウス、W /Wv 変異マウス、精巣輸出管結紮マウス、精巣摘出マウスを用いてトランスクリプトームの 比較解析を行った。その結果、アンドロゲンは分泌細胞としての分化全体を促進する一方、ルミクリンは精子成熟に 関与する特定の分泌因子の発現に選択的に寄与していることが明らかとなった。精巣上体は、エンドクリンと ルミクリンという異なる上位制御のもとで、精子成熟器官としての機能を発現することが示唆された。 【【考考察察】】本研究により、精巣上体における精子成熟制御の一端として、ルミクリンによる選択的な遺伝子発現誘導と、その分子基盤である NICOL の合成法が明らかとなった。アンドロゲンが分化全体を担う一方、ルミクリンは精子成熟に特化した分泌因子の発現を制御しており、精巣上体が複数の上位制御によって高度に調節されていることが示された。これは、従来避妊標的として注目されてこなかった精子成熟過程に対し、分子レベルでの介入を可能にする新たな道を拓く成果である。特に、活性を有する NICOL の合成に成功したことは、今後の避妊薬開発に向けた分子標的の特定やスクリーニング系の構築に向けた出発点として意義が大きく、精子成熟を標的とする次世代型男性避妊薬の創出に 資する基盤的知見となると考えられる。 【【発発表表】】 1) 2024 年 12 月 The 3rd JST International Symposium “Dynamics of Cellular Interactions in Multicellular Systems” 口頭発表 2) 2024 年 11 月 第 97 回日本生化学会大会、口頭発表 3) 2024 年 10 月 第 61 回ペプチド討論会、口頭発表 4) Kiyozumi. D. Distinct actions of testicular endocrine and lumicrine signaling on the proximal epididymal transcriptome. Reprod Biol Endocrinol. 2024 Apr 10;22(1):40. PMID: 38600586 DOI: 10.1186/s12958-024-01213-x. 現在の所属:自然科学研究機構 基礎生物学研究所淨淨住住 大大慈慈 淨住 大慈27
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