上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) in mouse cells before neural embryos 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) closure. Dev. Biol. tube 25老老化化脳脳のの慢慢性性炎炎症症ににおおけけるるニニュューーロロンンエエピピゲゲノノムムのの役役割割 老化脳の慢性炎症におけるニューロンエピゲノムの役割東東京京大大学学 定定量量生生命命科科学学研研究究所所 分分子子神神経経生生物物学学研研究究分分野野 東京大学 定量生命科学研究所 分子神経生物学研究分野【【背背景景・・目目的的】】超高齢化社会を迎えている現代において、高齢者の脳の老化は重要な課題である。実際に、認知機能や記憶力の衰えによる事故や詐欺被害などのニュースが毎日のように報じられており、脳の老化や加齢性の神経疾患を 予防・回復することは現代社会に暮らす全ての人の QOL を向上させるために必須である。脳の老化の引き金の一つは、慢性的な脳内炎症の亢進である。すなわち、全身の免疫系の変化や、酸化ストレスの増加、そしてマイクログリアの 活性化などを要因とした低レベルなものの慢性的な炎症が、ニューロンやその他の細胞にダメージを与え、脳の老化を引き起こすと考えられている。一方で、ニューロンはマイクログリアよりも数倍の細胞が存在し、脳の老化に伴う炎症反応に重要な役割を果たすと考えられるが、これまでその重要性はあまり解析されていない。本研究では、様々な種類の細胞の老化で異常を起こすことがわかっているエピゲノムが、ニューロンの老化に伴って変化し、それが慢性炎症の原因の一つであると仮説を立てて検討を行った。 【【方方法法・・結結果果】】加齢に伴って最も影響を受ける脳領域の 1 つである海馬を用いて、1 つの細胞核から遺伝子発現と エピゲノム状態を同時に計測できるシングルセルマルチオーム解析を実施した。この解析では、ATAC-seq を行うことで、エピゲノム状態の中でもクロマチンアクセッシビリティに着目した。まず、遺伝子発現とクロマチン アクセッシビリティの情報から海馬の細胞種を分類したところ、アストロサイトやオリゴデンドロサイト、マイクロ グリアなどの主要なグリア細胞に加え、CA1、CA2、CA3、歯状回、海馬台などの領域ごとに存在する興奮性 ニューロンと、いくつかのタイプの抑制性ニューロンを同定することができた。 これらの細胞種ごとに、発現が mRNA レベルで変動した遺伝子の数と、クロマチンアクセッシビリティが変化した遺伝子の数を定量した。その結果、ニューロンでは発現変動遺伝子の数に比べてクロマチンアクセッシビリティの変化がグリア細胞よりも大きいことがわかった。すなわち、ニューロンの老化では遺伝子の発現変化よりもエピゲノム変化がより顕著であることがわかった。 では、どのような遺伝子座においてエピゲノム状態が変化していたのであろうか?遺伝子発現やクロマチン アクセッシビリティが変化した遺伝子の特徴を、Gene Ontology 解析によって調べたところ、神経発生やニューロンの機能に関わる遺伝子の発現やクロマチンアクセッシビリティが変化していることがわかった。興味深いことに、regulation of inflammatory response に関わる遺伝子が、一部のニューロンにおいて mRNA の発現は変化しないものの、クロマチンアクセッシビリティだけが変化していることがわかった。 【【考考察察】】以上の結果は、ニューロンでは加齢に伴って遺伝子発現そのものよりもエピゲノム変化によって炎症反応に 異常が出ることを示唆している。エピゲノム状態は、「現在」の遺伝子発現を制御するだけでなく、刺激への応答性の変化を介して「将来」の遺伝子発現も制御しうる。すなわち、ニューロンにおける炎症関連遺伝子のエピゲノム変化は、加齢脳において炎症性刺激への応答性を変化させ、脳が満床炎症状態にするために重要である可能性がある。今後の 研究を通じて、老化脳の慢性炎症におけるニューロンエピゲノムの重要性をさらに明らかにしていきたい。 【【発発表表】】 1) Maeda, Y., Ding, J., Saeki, M., Kuwayama, N., and Kishi, Y. A simple method for gene expression in endo- and 2024 ectodermal https://doi.org/10.1016/j.ydbio.2024.08.001. 2) Sakai, S., Maeda, Y., Kawaji, K., Suzuki, Y., Gotoh, Y., and Kishi, Y. In vivo transition in chromatin accessibility during differentiation of deep-layer excitatory neurons in the neocortex. bioRxiv, 2024, 2024.08.26.609258. https://doi.org/10.1101/2024.08.26.609258. 3) Bilgic, M., Gotoh, Y., and Kishi, Y. Age-associated transcriptomic and epigenetic alterations in mouse hippocampus. bioRxiv, 2024, 2024.09.05.611100. https://doi.org/10.1101/2024.09.05.611100. 岸岸 雄雄介介 岸 雄介25
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