上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 図1 Cxcl1-floxedマウスの作製 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 23感感染染初初期期のの好好中中球球動動員員をを促促進進すするる多多臓臓器器連連環環機機構構のの解解明明 感染初期の好中球動員を促進する多臓器連環機構の解明東東京京医医科科歯歯科科大大学学 難難治治疾疾患患研研究究所所 生生体体防防御御学学分分野野 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野【【背背景景】】全身的な感染症による敗血症は現代においても制御困難な病態として知られており、全世界の死因の約 20%が敗血症に関連している(Lancet. 2020, 395: 200)。好中球は代表的な自然免疫細胞であり、好中球の減少は細菌や 真菌に対する易感染性を誘導し、敗血症の要因となることから(Clin Med. 2013, 13: 185)、感染症の進展や敗血症における好中球動態の制御機構を理解することは、敗血症の新たな治療標的の創出に繋がると期待できる。 【【目目的的】】本研究では、好中球が最も早く骨髄から末梢組織へと遊走する細胞であることに着目し、この末梢への遊走 速度を可能にしているメカニズムを明らかにすることを目的とする。 【【方方法法】】リポポリサッカライド(LPS)を野生型マウスに腹腔内投与し、各臓器における敗血症誘導直後の好中球 走化性因子であるCxcl1やCxcl2の遺伝子発現、および ELISA 法によるタンパク質レベルでの定量を行った。また、Cxcl1-floxマウスを独自に樹立した(図 1)。このマウスをAlbumin-Creマウスと交配し、肝臓細胞特異的なCxcl1の欠損マウスを作製することで、生体内の肝臓由来 CXCL1 の役割を検証する。また、公知のデータベースを用いて、 ヒトの肝臓における好中球走化性因子の発現を他臓器と比較した。 【【結結果果】】定常状態のマウスの様々な組織(脾臓、リンパ節、肝臓、肺、腎臓、小腸、大腸、皮膚)において好中球走化性因子の遺伝子発現を検討したところ、肝臓におけるCxcl1の発現が他臓器と比較して突出して高いことが分かった。また、LPS 投与による敗血症誘導後は肝臓のCxcl1発現が約 10 万倍に増加したにもかかわらず、この傾向は維持されていた。一方、Cxcl2 の発現には臓器間で大きな違いが見られなかった。組織間で偏った Cxcl1 の発現がタンパク質 レベルでも確認されるか検証するため、各組織のホモジネートに対するタンパク質定量を行ったところ、mRNA 発現と同様にタンパク質発現でも CXCL1 の発現が肝臓で著しく高いことが分かった。この原因を調べるため、腸管からの微生物由来物質が血流を介して肝細胞を活性化している可能性を考え、この検証を行った。Germ free 環境での飼育や抗生物質投与が肝臓でのCxcl1の発現に及ぼす影響を調べたところ、SPF 飼育群と Germ free 飼育群、あるいは抗生物質投与群と非投与群の間で有意な差は認められなかったことから、肝臓におけるCxcl1の高い発現は腸管細菌叢と無関係であることが分かった。次に、肝臓におけるCxcl1の高発現が好中球の動態に及ぼす影響を調べるために、Cxcl1-floxマウスを樹立した(図1)。現在、このマウスをAlbumin-Creと交配し、肝細胞特異的なCxcl1の欠損マウスを作製している。さらに、ヒトにおいても肝臓における好中球走化性因子の顕著な発現が観察されるか調べるため、公知のデータベースを用いて遺伝子発現を調べたところ、興味深いことに、ヒトの肝臓ではCXCL1ではなく、CXCL2の発現が他臓器と比較して顕著に高いことが分かった。この結果は、肝臓において特定の好中球走化性因子が顕著に発現するという知見が種を超えて保存されたものであることを示しており、好中球遊走における肝臓の重要性を示唆している。 【【考考察察】】肝臓は最も大きな臓器として知られている。本研究で観察された好中球走化性因子の顕著な発現に加えて、肝臓の大きさを考慮すると、肝臓が好中球の動態に大きな影響を与えている可能性が高いと考えられる。全身炎症における好中球の挙動が特定の臓器に依存するという仮説を証明できれば、学問的な新規性に加えて、炎症や感染における好中球の挙動を制御するための重要な治療標的の開拓に繋がると期待できる。 金金山山 剛剛士士 金山 剛士23
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