上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 21時時をを遡遡るる単単一一細細胞胞解解析析技技術術をを用用いいたた造造血血幹幹細細胞胞のの理理解解 時を遡る単一細胞解析技術を用いた造血幹細胞の理解大大阪阪大大学学大大学学院院医医学学系系研研究究科科 ががんん病病理理学学教教室室 神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター 血液・腫瘍研究部我々哺乳動物の造血幹細胞は、胎児期から成体に至るまで自己複製と分化を繰り返しながら一生涯にわたる造血を維持している。その過程で生じる様々なストレス環境下での適応システムの多様性において、どのような造血細胞が適応でき幹細胞性を維持しているのか、これまでの解析手法の限界から解像度は乏しいままである。本研究では、新技術を用いて、得られた形質から時間を遡って同一クローンに特異的な塩基編集を誘導することで、時間軸を逆行する幹細胞動態解析を実現させることが期待される。さらに、出生や炎症などの環境変化・加齢ストレスモデルを利用して造血細胞のレジリエンスの本態を突き止め、幹細胞としての「適応多様性」の解明を目指している。 これまでの加齢性変化を模倣する研究において、造血幹細胞に脂質過酸化を蓄積する生体モデルを作出すると、幹細胞性の低下や B 細胞の分化障害だけでなく、B 細胞前駆細胞由来の成熟好中球が得られるなど、これまでの分化 コミットメントの概念を覆すような成果が得られた。具体的には、セレノプロテイン群の翻訳に必須の tRNA であるTrsp を欠失させた造血幹細胞を体外培養すると、過酸化脂質の蓄積を伴い速やかな細胞死が、細胞コンテキスト依存的に生じていた。代表的なセレノプロテインである GPX4 は、過酸化脂質の蓄積によって誘導される鉄依存性の細胞死「フェロトーシス」を強力に抑制することが知られている。実際に、Trsp 欠失造血幹細胞で観察される細胞死は ビタミン E や Ferrostatin-1 などのフェロトーシス阻害剤の添加により回避された。また、Trsp欠失マウスは加齢やビタミン E 欠乏飼料により、過酸化脂質の蓄積を伴い B リンパ球成熟障害が加速すること、対照的に、ビタミン E 過剰飼料の投与により改善することを見出した。これらの結果から、セレノプロテイン群が過酸化脂質蓄積の抑制を介して造血幹細胞の維持とBリンパ球の成熟に寄与することが明らかとなった。興味深いことに、Trsp欠失 B 前駆細胞は好中球関連遺伝子の異所性発現を認め、対照的に B リンパ球関連遺伝子の発現低下や pro-B 細胞以降の成熟障害を示した。Trsp欠失マウス由来の B 前駆細胞由来を野生型マウスに移植して分化運命を観察すると、驚くべきことに形態・機能とも好中球に類似した細胞が生じた。これらのことから、過酸化脂質が蓄積したTrsp欠失 B 前駆細胞は、正常な分化経路を辿れず、異系統であるミエロイド系列への分化スイッチを起こすことが示唆された。 以上の点を鑑み、現在 RNA 編集を司る mTarget-AID トランスジェニックマウスから得られた細胞にライブラリを感染し個別の細胞に個別の RNA 編集を生じさせ、得られた形質の元の起源を辿る系を体外増幅系や移植モデルを用いて構築中である。まず、上記の脂質過酸化蓄積モデルを用いて、B 細胞前駆細胞にライブラリを感染し、個別に RNA編集を生じさせ、そこから派生したと思われる好中球の元の起源を辿る系について、移植モデルを用いて実装中である。さらに、すでに実現している造血幹細胞の体外増幅系を通じて、ex vivo というストレス環境下でフィットネス アドバンテージを獲得するクローンを解析している。このような新技術は、白血病幹細胞の薬剤耐性クローンの起源を解析し、耐性を獲得するクローンの運命制御を探索することで、環境適応の攪拌下における、幹細胞レジリエンスを理解する上で重要なツールとなることが期待される。 【【発発表表】】 1) 2024 年 9 月 第 83 回日本癌学会学術総会、シンポジウム口頭発表 2) 2024 年 11 月 第 97 回日本生化学大会、シンポジウム口頭発表 24th IRCMS Symposium on Hematopoiesis and Leukemia、シンポジウム口頭発表 3) 2025 年 2 月 4) 2025 年 3 月 US/Japan/Australia Meeting on Hematologic Malignancies、シンポジウム口頭発表 現在の所属:大阪大学 大学院医学系研究科 がん病理学教室井井上上 大大地地 井上 大地21
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