上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 11筋筋幹幹細細胞胞のの力力学学的的調調和和をを基基軸軸ととすするる筋筋恒恒常常性性維維持持機機構構 筋幹細胞の力学的調和を基軸とする筋恒常性維持機構静静岡岡県県立立大大学学 大大学学院院薬薬学学研研究究院院 統統合合生生理理学学講講座座 静岡県立大学 大学院薬学研究院 統合生理学講座【【背背景景】】骨格筋線維は成体でも極めて高い再生能を有しており、過剰な負荷に伴う筋線維へのダメージに応じて筋線維を新生することで、骨格筋機能のみならず全身の恒常性を維持している。筋線維の再生過程は、①筋幹細胞(筋衛星 細胞)から筋芽細胞へ運命決定、②筋芽細胞の遊走および筋芽細胞同士の細胞融合を介した融合体(筋管)の形成、 ③筋管の伸長による筋線維への成熟に大別される。私たちは、膜張力などの物理的な力を感知する機械受容イオン チャネル PIEZO1 が、筋管形態の決定に関わること(Tsuchiya et al., Nature Commun., 2018)、さらに、PIEZO1 は特に未分化の筋幹細胞にて高く発現し、幹細胞の細胞分裂時に PIEZO1 が分裂溝に集積し分裂過程を推進することで、筋再生をもたらすことをそれぞれ見出した(Hirano et al., Life Sci. Alliance, 2023)。すなわち、筋衛星細胞は、自身の「力学場」を適切に感知することで、秩序だった筋再生をもたらすことが示された。そこで、本研究では、物理的な力感知に関わる機械受容イオンチャネル群の協働を介した筋再生過程の全容解明を目指した。 【【方方法法】】本研究の動物実験について、静岡県立大学動物実験委員会の承認のもと行った。Trpm7-floxマウスに筋 衛星細胞特異的に Cre レコンビナーゼを発現する Pax7-CreERT2を掛け合わせ、タモキシフェン適用により Trpm7遺伝子欠損を誘導するマウスを作出した。組織学的解析のため、筋線維融解作用を持つヘビ毒(カルジオトキシン)を前脛骨筋に注入し、再生筋線維の評価を行った。また、FACS を用いて筋衛星細胞の単離を行い、増殖能・分化能等を検討した。単離筋衛星細胞におけるマグネシウムイオン(Mg2+) 濃度変化を、Mag-green等を用いて検出した。 【【結結果果・・考考察察】】まず、骨格筋線維の再生過程全般での機械受容イオンチャネルの機能解明を試みた。筋融解剤を用いて実験的に筋損傷を誘導し、筋衛星細胞におけるイオン動態を検討したところ、Mg2+濃度が筋損傷後に有意に上昇した。そこで Mg2+透過能を有する TRPM7 イオンチャネルに着目し、筋衛星細胞特異的Trpm7欠損マウスの作出・解析を行ったところ、Trpm7欠損マウスでは筋損傷後に著しい筋再生不全を呈した。またTrpm7欠損により、筋衛星細胞の細胞増殖能が著しく損なわれることを見出した。 続いて、RNA-seq 解析等を行い TRPM7 チャネルがもたらす細胞内情報伝達経路の解明を試みた。その結果、Trpm7欠損マウス由来の細胞群では、(1)筋再生を司る転写因子群 MyoD や Myogenin、(2)細胞周期の促進に関わる Cyclin関連因子群、(3)ミトコンドリアの構成因子、それぞれの遺伝子発現の顕著な減少が認められた。実際、筋衛星細胞の機能解析を行い、Trpm7 欠損細胞では静止状態からの細胞周期の進入が損なわれ、筋再生に必要な細胞増殖や分化が停止した。また、ミトコンドリア関連因子の発現変動より、筋衛星細胞の活性化に着目した。筋衛星細胞は静止期から「GAlert 期」とよばれる半覚醒状態に一過的に移行し、迅速な筋再生をもたらすことが知られている。この過程で ミトコンドリアの量および機能が増強されるが、Trpm7欠損により GAlert期への移行も抑制された。また、この過程では mTORC1 シグナル伝達経路が重要な役割を果たしているが、Trpm7欠損にて同経路の活性化が減弱した。 筋衛星細胞は静止状態から活性化状態に移行する際、数時間以内に最初期応答遺伝子群(Fos、c-Jun)などの発現 増強とともに筋衛星細胞の劇的な形態変化を引き起こし、適切な細胞応答がもたらされる。Trpm7 欠損によりこれらの最初期応答も顕著に減弱したことから、TRPM7 は最初期応答に必要不可欠であることが示された。興味深いことに、これらの表現型は Mg2+を過剰に添加した細胞群でのみ、Trpm7欠損の表現型がレスキューされた。この結果は、他のMg2+透過経路による Mg2+流入が、Trpm7欠損の表現型を相補したことを意味しており、TRPM7 イオンチャネルを介する Mg2+流入が、筋再生をつかさどる最初期の応答として重要であることが証明された。今後、さらなる解析により、機械受容を介する筋再生機構の全容解明が期待される。 【【発発表表】】Hirano K, Nakabayashi C, Sasaki M, Suzuki M, Aoyagi Y, Tanaka K, Murakami A, Tsuchiya M, Umemoto E, Takabayashi S, Kitajima Y, Ono Y, Matsukawa T, Matsushita M, Ohkawa Y, Mori Y, & Hara Y. Mg2+ influx mediated by TRPM7 triggers the initiation of muscle stem cell activation. SScciieennccee AAddvvaanncceess.. 2025 Apr 4;11(14):eadu0601. doi: 10.1126/sciadv.adu0601. 原原 雄雄二二 原 雄二11上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025)

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