上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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99上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 認認知知的的柔柔軟軟性性をを制制御御すするる腸腸脳脳連連関関因因子子のの解解明明 東東京京大大学学 大大学学院院総総合合文文化化研研究究科科 広広域域科科学学専専攻攻 生生命命環環境境科科学学系系 坪坪井井 貴貴司司 【【背背景景とと目目的的】】認知機能のうち認知的柔軟性は、変化し続ける状況の中でアプローチを変えながら課題やルールに対応する能力で ある。近年、消化機能が脳機能と密接に相互作用する「腸脳連関」の仕組みが明らかとなり、なかでも消化管中のホルモン分泌や腸内細菌叢が認知機能の維持に重要な役割を果たすことが報告されている。そこで、インスリン分泌の促進や食欲の抑制に関与する消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)に着目し、GLP-1が腸脳連関の重要な担い手ではないかと考え、全身の代謝や認知機能にGLP-1が果たす役割の解明を目指した。 【【方方法法】】脳下垂体から分泌されるホルモンであるアルギニンバソプレシン(arginine vasopressin:AVP)の受容体遺伝子欠損マウス、および野生型マウスを対象に血液生化学測定、組織化学解析、遺伝子発現解析を行い、GLP-1をはじめとするホルモンの動態、代謝系臓器の形態や遺伝子発現を比較した。 【【結結果果とと考考察察】】AVP受容体遺伝子欠損マウスでは野生型マウスに比べ、骨格筋や褐色脂肪組織での過剰な脂質蓄積と、食後のGLP-1分泌不全が見られた。さらに糞便中で短鎖脂肪酸の一種である酪酸の比率が増加しており、また酪酸酸性菌の一種Clostridium IVの比率も増加していた。GLP-1を分泌する腸内分泌L細胞株に酪酸を長期間添加して培養した ところ、GLP-1分泌能の低下が見られた。以上の結果から、AVP受容体遺伝子欠損マウスでは腸内細菌叢と代謝物の組成が変化して腸管内で慢性的に酪酸が増加し、GLP-1の分泌能が低下すると考えられた。そして骨格筋や褐色脂肪組織でGLP-1の作用が失われることで、脂質代謝に異常が起こると考えられた(図、発表1)。AVPは社会行動や母性行動に関与しており、AVP受容体遺伝子欠損マウスでは社会行動の低下がみられている[1]。今後、GLP-1分泌の抑制または増強が行動変化にどのような影響を及ぼすか、その神経メカニズムとともに明らかにする予定である。 【【発発表表】】 1) Harada K, Wada E, Osuga Y, Shimizu K, Uenoyama R, Hirai YM, Maekawa F, Miyazaki M, Hayashi KY, Nakamura K, Tsuboi T. Intestinal butyric acid-mediated disruption of gut hormone secretion and lipid metabolism in vasopressin receptor-deficient mice. Molecular Metabolism. 2025 Jan;91:102072. Epub 2024 Dec 11. PMID: 39668067 DOI: 10.1016/j.molmet.2024.102072 【【文文献献】】 1) 江頭伸昭、三島健一、岩崎克典、中西博、大石了三、藤原道弘。精神機能におけるバソプレシン受容体の役割。 日本薬理学雑誌 2025 Jul 14;134(1):3-7. DOI: 10.1254/fpj.134.3 図 本研究で明らかになった腸脳連関の破綻がもたらす代謝異常 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025)認知的柔軟性を制御する腸脳連関因子の解明東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系坪井 貴司

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