55上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 正常肺と COPD(肺気腫)の比較:老化細胞と肺修復への影響 老老化化とと再再生生のの相相互互作作用用をを通通じじたた新新たたなな治治療療戦戦略略のの開開発発 老化と再生の相互作用を通じた新たな治療戦略の開発東東京京都都健健康康長長寿寿医医療療セセンンタターー 老老化化細細胞胞 東京都健康長寿医療センター 老化細胞 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は、世界の主要な死因の一つであるが、その主要病態である肺気腫に対しては、現時点で有効な治療法が確立されていない。我々は以前に、マウス肺気腫モデルを用いて、肺組織の老化細胞が肺気腫病態を悪化させる作用を持ち、セノリシスによって病態の悪化を抑制できることを明らかにした。本研究では、老化細胞が肺気腫病態を悪化させる機構の一つとして、肺組織の再生・修復系に対する抑制作用に着目し、老化細胞がそれらに及ぼす影響とそのメカニズムを解明するとともに、老化細胞の作用を標的とした肺気腫治療モデルの確立を目的とした。 予備実験の結果から、老化細胞は SASP(senescence-associated secretory phenotype)を介して肺組織の幹・前駆細胞に作用することが示唆されていた。SASP の影響を受けた幹・前駆細胞では、特定の核内受容体の活性が低下していた。この核内受容体に対する合成アゴニストを培養系の幹・前駆細胞に作用させたところ、分化様式の変化が認められた。さらに、RNA シークエンスによる発現解析を行ったところ、この核内受容体がWnt遺伝子の発現を制御していることが示唆された。COPD 患者の肺組織では、Wnt シグナルが低下していることが先行研究により明らかになっている。そこで、エラスターゼ投与により肺気腫を発症させたマウスに核内受容体アゴニストを投与し、病態の改善効果を検証した。その結果、アゴニスト投与群では有意な呼吸機能の回復が認められた。 また、アゴニストを投与したマウスの肺組織の RNA 解析を行ったところ、Wnt シグナルの標的遺伝子の発現誘導が確認された。さらに、免疫組織学的解析では、肺組織においてβ-catenin の蓄積が認められた。これらの結果から、肺組織の老化細胞は、幹・前駆細胞の核内受容体-Wnt シグナル経路を介して肺組織の修復を抑制し、肺気腫病態を悪化させることが示唆された。さらに、この核内受容体の活性化は、老化細胞が存在する環境下でも肺修復を促進できることが示され、肺気腫に対する有望な創薬・治療標的となる可能性が期待される。 さらに、本研究では、病態における肺組織修復系と老化細胞の相互作用を解析するため、肺修復に特に重要な BASC(bronchioalveolar stem cell)を生体から排除可能な遺伝子改変マウスの作製を進めている。ES 細胞を用いたゲノム編集により、目的の改変遺伝子座を保持するマウスを得ており、今後、このマウスを用いて肺気腫モデルにおける機能解析を進める予定である。 【【発発表表】】 1) 2024 年 11 月 日本分子生物学会年会、シンポジウム 2) 2024 年 6 月 日本老年学会学術集会、シンポジウム 3) 2024 年 6 月 日本抗加齢医学会総会、シンポジウム 4) Tsushima H., Tada H., Asai A., Hirose M., Hosoyama T., Watanabe A., Murakami T., Sugimoto M. Roles of pigment epithelium-derived factor in exercise-induced suppression of senescence and its impact on lung pathology in mice. Aging (Albany NY) 16. 10670-10693. 2024. 現在の所属:国立長寿医療研究センター 細胞病態 現在の所属:国立長寿医療研究センター 細胞病態杉杉本本 昌昌隆隆 杉本 昌隆
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