上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
201/224

2_PAMUUMAP_1上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 173細細胞胞内内糖糖代代謝謝にに着着目目ししたた糖糖尿尿病病性性腎腎臓臓病病のの病病態態解解明明 細胞内糖代謝に着目した糖尿病性腎臓病の病態解明東東京京医医科科歯歯科科大大学学 大大学学院院医医歯歯学学総総合合研研究究科科 医医歯歯学学専専攻攻 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 器官システム制御学講座【【研研究究のの背背景景とと目目的的】】糖尿病性腎臓病は、慢性腎臓病の最も重要な原因疾患であり、放置すると末期腎不全に進行し、維持透析などの腎代替療法を行わなければ生命の維持が不可能となる致死性疾患である。維持透析には年間 1 兆 6 千億円程度の医療費が使われており、この約 4 割が糖尿病性腎臓病を原因とする。これまで糖尿病性腎臓病を改善・治癒させるために多くの創薬の試みが行われてきたが、いずれも腎機能を改善させることには成功していない。糖尿病性 腎臓病は、医療と経済の両面にまたがる未解決問題である。我々は糖尿病性腎臓病病態の主要部分を解明し、候補治療薬を発見した(Cell Metab 33:1042-1061)。糖尿病性腎臓病では早期に近位尿細管上皮に Kidney Injury Molecule-1(KIM-1)という脂質のエンドサイトーシス受容体分子が発現するようになる。KIM-1 は、原尿中に大量に流れている脂肪酸が結合しているアルブミン分子を、エンドサイトーシスにより上皮細胞内へ取り込み、細胞老化を中心とした機序を介して、炎症性・線維性サイトカインを分泌し、周囲に炎症・線維化を惹起することを解明した。 同時に KIM-1 の発現は、Warburg 効果と呼ばれる酸化的リン酸化から解糖系への代謝変化を引き起こすことを発見 した。本研究では、「糖尿病性腎臓病を中心とした慢性腎臓病(CKD)において、KIM-1 の発現が尿細管上皮細胞のWarburg 効果とそれに伴う炎症・線維化を引き起こし、SGLT2 阻害薬は尿細管上皮細胞の Warburg 効果を抑制することで腎保護作用を示す」と仮説を立て、それを証明することを目的とした。 【【方方法法】】ヒト患者摘出腎に由来する三次元の臓器様構造物・尿細管オルガノイドを正常腎機能の腎臓、末期腎不全の 腎臓からそれぞれ 5 例ずつ樹立し、それらをシングルセル RNA-seq(scRNA-seq)解析し、Warburg 効果を促進する遺伝子を網羅的に解析した。同定された遺伝子に対し、ヒト末期腎不全検体で免疫染色を実施した。 【結果】ヒト患者腎由来の尿細管オルガノイドの scRNA-seq により、Warburg 効果を促進する遺伝子 X を多量に発現する細胞集団が、末期腎不全腎由来のオルガノイドで同定された。末期腎不全腎の組織検体において、遺伝子 X と KIM-1 の免疫染色を実施したところ、両者は高度に共局在していた。この X の効果を阻害する薬剤は、すでに臨床 応用されている。今後尿細管オルガノイド、それをさらに血管内皮細胞・線維芽細胞を、尿流を模倣する培地のフローをかけるマイクロ流体デバイス上で共培養して作製する腎臓模倣システム(腎臓 MPS)、マウスの糖尿病性腎臓病を 中心とした CKD の動物モデルで今後この遺伝子 X と KIM-1 との関連、および X の阻害薬の抗 CKD 薬としての薬効薬理について検証を実施し、X の阻害薬の実用化を目指す。 【【考考察察】】Warburg 効果はマクロファージで炎症性サイトカインの分泌に必須の細胞内代謝機構であることが知られている。リポポリサッカライド(LPS)の刺激をマクロファージが TLR4 を介して受け取ると、炎症性サイトカイン分泌のカスケードが活性化するが、Warburg 効果を遮断すると、LPS の刺激下においてもこの現象は起きなくなる。 KIM-1 を発現した尿細管上皮細胞は、non-professional phagocytosis を中心としたマクロファージと同様の形質を 獲得することが知られている。このことから、Warburg 効果の存在自体が糖尿病性腎臓病を中心とした治療標的と なることが予想される。 【【 発発 表表 】】 https://researchmap.jp/yutaro_mori/research_projects/40680732#!#rm-reseach-project-achievements を 参照。 ヒト尿細管オルガノイド(正常腎(non-CKD)と末期腎不全腎(ESKD))の scRNA-seq 解析 森森 雄雄太太郎郎 森 雄太郎173

元のページ  ../index.html#201

このブックを見る