上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 165粘粘液液型型脂脂肪肪肉肉腫腫特特異異的的転転写写標標的的のの同同定定とと治治療療へへのの応応用用 粘液型脂肪肉腫特異的転写標的の同定と治療への応用和和歌歌山山県県立立医医科科大大学学 医医学学部部 病病理理学学講講座座 和歌山県立医科大学 医学部 病理学講座希少がんである肉腫の組織型のひとつに、粘液型脂肪肉腫がある。脂肪肉腫の 2 番目に多いタイプで、成人の軟部 肉腫の 10%を占める。粘液型脂肪肉腫は四肢などに発生し、一般的には外科的手術により摘出されることが 目指される。ただし、一部の症例では術後に再発し、さらに全身に転移することがある。これらの場合は ドキソルビシンやイフォスファミドなどの古典的な抗がん剤を用いた化学療法が行われるが、腫瘍細胞の生存を特異的に阻害できる治療ではないため、限定的な治療効果しか期待できない。粘液型脂肪肉腫の腫瘍形成や進展に重要な分子メカニズムを解明し、それに基づく治療法が創出されることが待たれている。一方で、粘液型脂肪肉腫細胞では、脂肪分化過程の染色体核内配置の移動により染色体転座が誘導され、translocated in liposarcoma(TLS、別名 FUS)とCCAAT/enhancer-binding protein homologous protein(CHOP、別名 DDIT3 もしくは GADD153)の間で、新たな融合遺伝子 TLS-CHOP(別名 FUS-DDIT3)が形成される。いくつかの報告から、粘液型脂肪肉腫の形成において TLS-CHOP が中心的に働いていることもわかっているが、TLS-CHOP がコードするキメラがんタンパクが どのような生化学的作用をもたらすか、決定的なメカニズムは同定されていない。 そこで本研究課題では粘液型脂肪肉腫細胞における TLS-CHOP の生化学的機能に着目した。特に肉腫細胞で観察 されるキメラがんタンパクの一部は、腫瘍特異的な転写因子として機能し、腫瘍の進展に寄与することが想定されて いる。クロマチン免疫沈降シーケンスなど、生化学的なアプローチで粘液型脂肪肉腫細胞に特異的な標的遺伝子の同定を試みた。 抗 CHOP 抗体を用いた免疫沈降を行い、次世代シーケンサーを用いることで、ゲノムワイドに CHOP の結合領域を同定した。その結果、最も結合が強い遺伝子の 1 つを抽出した。複数の粘液型脂肪肉腫細胞の TLS-CHOP 発現の ノックダウンを行ったところ、この遺伝子の mRNA ないし翻訳産物であるタンパク質の発現が低下したことから、 粘液型脂肪肉腫細胞では TLS-CHOP がこの遺伝子の発現を誘導するものと判断された。一方で、正常線維芽細胞にTLS-CHOP を過剰発現したが、それだけではこの遺伝子の発現誘導は確認できず、TLS-CHOP による発現誘導にはエピジェネティックな修飾が加わることが必要であると考えられた。また、粘液型脂肪肉腫細胞に対してこの遺伝子を標的とした siRNA を導入したところ、細胞にアポトーシスが誘導され、増殖が抑制されたことから、この遺伝子が 粘液型脂肪肉腫の増殖に重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、この遺伝子の発現制御に関わる エピゲノム、特にエンハンサー活性に関する解析をすすめている。さらに今後は、この遺伝子の生物学的な作用を解析するとともに、この遺伝子を標的とした治療が成立するか検証していきたい。 【【発発表表】】 1) 2024 年 9 月 第 83 回日本癌学会学術総会、ポスター発表 江江帾帾 正正悟悟 江帾 正悟165

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