上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
180/224

1カルボニルストレスに着目した精神疾患発症機序の解明〇〇大学 〇〇科新井 誠上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 上原記念生命科学財団研究報告集、 39(2025) 152熱熱応応答答性性分分子子にによよるる生生体体深深部部生生命命現現象象のの超超音音波波制制御御 熱応答性分子による生体深部生命現象の超音波制御東東京京大大学学 大大学学院院理理学学系系研研究究科科 化化学学専専攻攻 分分析析化化学学研研究究室室 東京大学 大学院理学研究科 化学専攻 分析化学研究室生きた個体における恒常性維持に関わるシステムの時空間的ダイナミクスを統合的に解明するには、生体深部の生体分子の反応素過程を人為的に操作する非侵襲的な研究基盤技術が必要である。代表的な生体分子であるタンパク質の 反応素過程には、立体構造変化によるタンパク質活性の調節、およびタンパク質間の相互作用が挙げられる。近年、 タンパク質活性を光で人為的に制御する光遺伝学の進展により、生体分子反応素過程を操作し、細胞間シグナル伝達動態の生理的機能を解明することが可能になりつつある。一方で、光の到達が困難な組織深部における生体分子反応の生理的意義については分析手法が不足しているため、解析が困難であった。光と比較して、超音波は組織透過性が非常に 高く、人体においても超音波画像診断や組織深部の治療など医療現場で幅広く活用されている。特に治療に使われる 高密度焦点式超音波は、およそ 5 cm までの深さで mm 単位の範囲を 40℃~60℃まで、数秒~1 分以内に加熱可能である。したがって、超音波を用いた加熱は、生体深部での細胞間シグナル伝達を制御するのに理想的な刺激手段である。そこで、本研究で提案する超音波による局所加熱現象を利用し、生体深部の生命現象を「操作する」技術を着想した。 本研究課題では、生体透過性の高い焦点式超音波による局所加熱現象を利用し、組織深部で生体内現象を人為的に 制御するシステムを構築することを目的としていた。そのため、まず生体内反応の素過程であるタンパク質間相互作用を加熱により制御する、熱遺伝学的モジュールの開発を行った。具体的には、熱で単量体化するαヘリックスペプチドのペアを活用し、変異導入等により 37℃~40℃の加熱で、加熱によりホモ二量体またはヘテロ二量体が単量体化する熱遺伝学的解離モジュールを開発した。これらの解離モジュールは、37℃~39℃にかけて単量体化が進行すること、 また、単量体化は可逆的な反応であることが確認された。ヘテロ二量体型解離モジュールについては、培養細胞内で モジュールの片方を細胞膜に繋留し、もう片方の局在を蛍光顕微鏡により確認したところ、加熱によって細胞膜から サイトゾルへの移行が確認され、熱遺伝学的解離モジュールを用いることで細胞内局在を制御できることが明らかと なった。次に、開発した熱遺伝学的解離モジュールを基本骨格として、タンパク質間相互作用を熱により誘導する熱 遺伝学的結合モジュールを開発した。本モジュールは、タンパク質間相互作用を熱により誘導することのできる世界初のモジュールである。 次に熱遺伝学モジュールを用いることで、細胞間シグナル伝達の制御に応用可能なシステムを構築した。具体的には、まずホモ二量体型の熱遺伝学的解離モジュールを用いることで、タンパク質分泌を熱により制御するシステムを開発 した。本システムは、40℃、10 分間の加熱でタンパク質分泌を誘導可能である。一方、熱遺伝学的結合モジュールを用いることで、受容体タンパク質の発現を制御可能なゲノム組み換えを、熱により誘導するシステム ThermoCre を 構築した。ThermoCre を用いることで、40℃の加熱によって 50 倍以上の組み換え効率の誘導が達成された。本 システムは現在特許出願中(特願 2024-59494)である。さらに、開発した熱遺伝学的モジュール・システムについて、焦点式超音波の照射による局所加熱現象を用いて、これらのモジュール・システムが駆動可能であることを検証した。現在、さらなる応用としてCas9 の熱制御システムの検討を行っており、加熱刺激に対して安定な変異体の特定を行い、分割位置の検討を行っている。また、加熱条件について、実際のシグナル経路への温度変化の影響を系統的に解析し、40℃、10 分の加熱ではインスリンシグナル経路への影響が無いことが確認された。現在、マウスを用いた実験を試行中である。 152遠遠藤藤 瑞瑞己己 遠藤 瑞己

元のページ  ../index.html#180

このブックを見る