上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 133膵膵癌癌特特異異的的ななセセリリンン代代謝謝メメカカニニズズムムににつついいててのの検検証証 膵癌特異的なセリン代謝メカニズムについての検証熊熊本本大大学学 大大学学院院生生命命科科学学研研究究部部 消消化化器器外外科科学学 熊本大学 大学院生命科学研究部 消化器外科学【【背背景景】】あらゆる消化器癌の中でも最も予後不良である膵癌は、通常乏血性であり、特有の代謝リモデリング機構を 有していることが予想される。我々はこれまでに、膵癌細胞が非必須アミノ酸の一種であるセリンの生合成を亢進することでその増殖能を加速させる可能性を見出し、その生合成酵素である PHGDH の発現がセリン飢餓状態で誘導 されるメカニズムの一つを明らかにした(Itoyama et al. CCaanncceerr LLeetttt.. 2021)。 【【目目的的】】これまでの我々の検証は膵癌に限定したものであった。本研究では他の消化器癌においてのセリン代謝に着目し、外的セリン飢餓状態でのセリン生合成系の亢進が膵癌特異的な代謝リモデリングであるという仮説を立て、他の 消化器癌サンプルを用いた検証を行うことで、それを明らかにすることを目的とした。 【【方方法法】】大腸癌肝転移の切除症例、および肝細胞癌の切除症例の術前採取の血液サンプルをそれぞれ 30 例ずつ用いてアミノ酸解析を行い、健常者および膵癌患者のアミノ酸解析結果と比較した。また、膵癌患者では血中セリン濃度と 癌部の PHGDH 発現レベルに相関関係が認められたが、大腸癌肝転移症例および肝細胞癌症例でも、癌部での PHGDH発現レベルと血中セリン濃度の間に相関があるか検証を行った。 【【結結果果】】肝細胞癌(HCC)と大腸癌肝転移(CRLM)の術前採取した血液サンプルでアミノ酸解析を行った結果、過去の報告と同様、膵癌患者は全体的に低アミノ酸血症であり、それは特に必須アミノ酸で顕著な傾向であった。HCC、CRLM でも同様に、必須アミノ酸に関しては低アミノ酸血症である傾向が見られた。一方で、非必須アミノ酸に 関しては健常者と比してセリン(Ser)はHCC や CRLM でも高値であったが、セリン代謝系と深く関連するグリシン(Gly)は CRLM のみわずかに高値であった。その他、アルギニン低値やオルニチン高値は共通してみられた傾向で あり、がん種に関わらず共通するがんでのアミノ酸代謝の傾向の一つである可能性が示唆された。また、癌部でのPHGDH の発現を、切除検体を用いて免疫組織化学染色で評価し、その発現強度と発現領域の割合でスコアリングし、高発現群と低発現群とに分けて血中セリン濃度との比較を行ったが、まだ少数例での検討に留まっており、現時点での相関関係は不明である。 【【考考察察】】今回の検討では、セリン代謝の亢進自体は膵癌特異的なものではなく、がん代謝にある程度共通して生じて いる代謝リモデリングである可能性が示唆された。生合成されない必須アミノ酸は、癌患者の場合、概ね健常者より 低値であることは今回の検証でも明らかになったが、intake のみに依存せず、体内で生合成される非必須アミノ酸に 関してはセリンやオルニチンのようにがん患者でむしろ高値を示しているものもあり、これらの代謝系を詳細に検証 することで、新たながんの代謝リモデリング機構が明らかになる可能性が示唆された。 血中アミノ酸解析の結果 血中セリン濃度と PHGDH 発現レベルの関係 伊伊東東山山 瑠瑠美美 伊東山 瑠美133
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