上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 127アアスストトロロササイイトトをを軸軸ととししたた全全身身機機能能へへのの介介入入 アストロサイトを軸とした全身機能への介入関関西西医医科科大大学学 附附属属生生命命医医学学研研究究所所 神神経経機機能能部部門門 関西医科大学 附属生命医学研究所 神経機能部門【【背背景景】】グリア細胞の一種であるアストロサイトは神経細胞や他のグリア細胞に加え、末梢組織とつながる血管系とも双方向的に情報のやりとりを行う。このような特徴から、同細胞は脳-身体連関における重要なインターフェイスと して機能していると想定されている。しかし、アストロサイトが全身機能に与える影響やそのメカニズムについては 不明な点が多い。そのような中、代表者はマウスの特定脳領域のアストロサイトをGq-DREADD により活性化すると、体温低下や代謝低下などの自律神経機能の変調が誘導される現象を見出した。本研究では、アストロサイト依存的な 自律神経機能変調の動作原理を解明することで、アストロサイトを標的とした代謝制御技術開発の理論基盤を構築することを目指した。 【【方方法法】】アデノ随伴ウイルス(AAV)を C57BL/6 マウスの特定脳領域へ微量注入することで目的細胞に任意の機能性たんぱく質を発現させたマウスを作製した。DREADD システムを利用した実験では、クロザピン-N-オキシド(CNO)を 3 mg/kg または 1 mg/kg 腹腔内投与し、各種生理応答変化の測定を行った。AAV 投与から 2 週間以上経過した動物に対して、薬物を脳室内投与するためのカニューラ埋め込みを行った。カニューラは歯科用セメントを用いて固定し、手術から少なくとも 1 週間経過した動物を実験に使用した。酸素消費量測定には生体ガス分析用質量分析装置 ARCO-2000 を利用した。表面体温測定の際には 2 日以上前にマウス背側部を除毛し、サーモグラフックカメラ H2640 を 用いて計測を行った。 【【結結果果】】アストロサイト誘導性低代謝状態のマウスの生理状態変化を解析したところ、体温や酸素消費量の低下に加え、摂食量の低下も認められた。哺乳類の中には、飢餓や寒冷環境などにさらされると、自ら積極的にエネルギー消費と 摂取の両方を低下させる動物が存在する。この現象は「休眠」と呼ばれ、脳内のアデノシン A1 受容体(A1AR)が 体温制御に重要な役割を果たしていることが報告されている。そこで、A1AR がアストロサイト誘導性の体温低下を 制御している可能性を検討したが、A1AR の薬理学的阻害は体温低下に影響を与えないことが判明した。複数の アンタゴニストを用いたスクリーニングの結果、本現象に寄与している受容体を特定することに成功した。興味深い ことに、同受容体の阻害はアストロサイト誘導性の体温低下のみを選択的に抑制し、摂食量の低下には影響を 与えなかった。 【【考考察察】】本研究では、アストロサイトの活動が引き金となって全身の代謝状態が変化する現象と、そのメカニズムに ついて検討を行った。従来、エネルギー代謝制御は主に神経細胞によって行われると考えられてきたが、本研究により、アストロサイトが体温や酸素消費量、さらには摂食行動にも影響を及ぼし、個体のエネルギー収支全体を調節しうる 存在であることが示唆された。とくに注目すべきは、アストロサイトの活性化が消費(体温・酸素消費量)と摂取 (摂食)という二方向の調節系に同時に作用する点である。また、特定の受容体阻害が体温低下のみを選択的に抑制し、摂食低下には影響を与えなかったという結果は、アストロサイトが複数の異なる経路を介して機能を発揮していることを示唆する。すなわち、アストロサイト活性化による低代謝状態は、単一の下位中枢ではなく、複数の中枢ネット ワークの協調により形成されている可能性が高い。これは、冬眠や休眠といった生理的な省エネ状態と共通する生理 基盤の一端を担っている可能性もある。本研究により、アストロサイトが個体のエネルギーバランスを統合的に調節 する中枢メカニズムの一翼を担っていることが明らかとなった。本知見は、アストロサイトを標的とした新しい全身 代謝調節技術の創出にもつながる可能性があり、基礎科学・応用研究の両面において意義深い。 【【発発表表】】 1) 2024 年 7 月 Neuro2024、ポスター発表 松松田田 烈烈士士 松田 烈士127

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