上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 113SSMMCC 複複合合体体のの DDNNAA ルルーーププ押押しし出出ししをを停停止止ささせせるる機機構構のの解解明明 SMC複合体のDNAループ押し出しを停止させる機構の解明京京都都大大学学 大大学学院院工工学学研研究究科科 合合成成・・生生物物化化学学専専攻攻 生生物物化化学学講講座座 京都大学 大学院工学研究科 合成・生物化学専攻 生物化学講座 生物化学工学分野【【目目的的】】Structural Maintenance of Chromosomes(SMC)複合体は広く保存されたゲノム構造化因子であり、ATPase活性をもつ巨大なリング状の構造をとる。SMC 複合体は、ATP のエネルギーを用いて自身のリング構造中に DNA ループを押し出していく(ループ押し出し)ことでゲノムを折り畳む。真核生物では、このループ押し出しが特定の DNA結合タンパク質(以下ロードブロック因子と呼ぶ)によって止められることでゲノムの構造と機能が制御されることが判明しつつある。例えば、真核生物のロードブロック因子はコヒーシンという SMC 複合体のループ押し出しを停止させることで、停止領域を境界とする Topologically Associating Domain(TAD)という染色体ドメイン構造を形成する。また、このドメイン構造は遺伝子発現の制御などに関わることが示唆されている。このような知見が得られつつあるものの、ロードブロック因子がSMC 複合体のループ押し出しを停止させる機構については未だ不明な点が多い。我々は、真核生物の起源になった原核生物「アーキア」のモデル生物である超好熱菌Thermococcus kodakarensisを研究する過程で、このアーキアのゲノムが TAD に似たドメイン構造を形成することを明らかにした。また、TAD 様ドメインの形成に必要な因子として、原核型 SMC 複合体の一種である Smc-ScpAB と、DNA の剛性を上げる働きをもつ DNA結合タンパク質である TrmBL2 を同定した。本研究では、「TrmBL2 が Smc-ScpAB を停止させるロードブロック因子として働くことで TAD 様ドメインを形成する」という仮説のもと、その検証を目指した。 【【方方法法】】TrmBL2 が Smc-ScpAB を TAD 様ドメインの境界領域で停止させているかを検証するため、Smc-ScpAB のサブユニットの 1 つである Smc と、TrmBL2 に対してポリクローナル抗体を作製し、これらを用いてゲノムワイドクロマチン免疫沈降(ChIP-seq)を実施した。また、TrmBL2 による DNA 剛直化が Smc-ScpAB の停止と関連するかを検証するため、組換え TrmBL2 を用いた生化学実験ならびに、TrmBL2-DNA 複合体の原子間力顕微鏡(AFM)解析を行った。 【【結結果果】】ChIP-seq を行った結果、TAD 様ドメインの境界領域の一部において Smc と TrmBL2 が共局在していることが確かめられた。また、trmBL2破壊株ではこの領域への Smc の蓄積がみられなくなったことから、TrmBL2 が予想通りドメイン境界で Smc-ScpAB を停止させていることが示唆された。興味深いことに、TrmBL2 はドメイン境界以外の約 90 ヶ所のゲノム領域でも Smc-ScpAB の停止を引き起こしていた。その一方で、これらの非境界領域では Smc-ScpAB が弱くしか蓄積していなかったことから、TrmBL2 による Smc-ScpAB の停止が特に効率よく起こる場合にのみ境界構造が形成されることが示唆された。ChIP-seq データをもとに停止効率と相関する因子を探索したところ、停止領域に存在する A トラクト配列の頻度が停止効率と正の相関を示すことがわかった。A トラクトは曲がりにくいDNA 構造を形成する配列として知られていることから、このような DNA 物性と TrmBL2 による DNA の剛直化が協調的に働くことで Smc-ScpAB を停止させることが示唆された。続いて、TrmBL2 が Smc-ScpAB の停止領域で DNAの剛直化を引き起こすかを検証するため、組換え TrmBL2 タンパク質と、相補的な一本鎖オーバーハングを末端にもつ停止領域 DNA 配列を混合し、停止領域 DNA 配列が末端での相補鎖形成によってループ構造を形成するかを検証した。その結果、組換え TrmBL2 の添加によってループの形成が阻害される、つまり DNA が曲がりにくくなることがわかった。このことから、TrmBL2 が特定領域で DNA の剛性を上げることで Smc-ScpAB を停止する可能性が裏付けられた。現在は TrmBL2 による DNA の剛直化を直接可視化するため、TrmBL2 と停止領域 DNA 配列の複合体構造を AFM で解析している(遺伝研・村山准教授との共同研究)。 【【考考察察】】本研究により、アーキアが真核生物と同様 SMC 複合体とロードブロック因子に依拠したドメイン構造を形成すること、またこの機構に DNA の物性が関わるという意外な可能性が明らかとなった。この成果は、未だ謎の多いSMC 複合体の停止機構とその意義についてユニークかつ重要な洞察をもたらすと期待される。 【【発発表表】】 1) Yamaura, K., Takemata, N., Kariya, M. et al. Chromosomal domain formation by archaeal SMC, a roadblock protein, and DNA structure. Nat Commun 2025 Feb 19;16(1):1312. PMID: 39971902 DOI: 10.1038/s41467-025-56197-y 竹竹俣俣 直直道道 竹俣 直道113

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