上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 109PPIITTXX11 をを介介ししたた腸腸炎炎関関連連大大腸腸癌癌発発症症機機序序のの解解明明 PITX1を介した腸炎関連大腸癌発症機序の解明大大阪阪大大学学 大大学学院院医医学学系系研研究究科科 免免疫疫制制御御学学 大阪大学 大学院医学系研究科 免疫制御学炎症性腸疾患(IBD)はいまだ原因不明の難治性疾患であるのみならず、10~30 歳代の若年に好発し、その後長期に及ぶ罹病期間のなかで大腸癌の発生リスクも高まり、特に潰瘍性大腸炎(UC)では発症後 30 年の間に約 20%が 大腸癌を併発するとされている。この「腸炎関連大腸癌(Colitis-associated cancer:CAC)」は、一般的な孤発性大腸癌と比較し、病理学的にも遺伝学的にもその発生様式の違いが指摘されており、CAC 固有の癌化機序として「炎症性発癌」の病態の存在が示唆されているが、その詳細は依然未解明のままである。そこで我々は、IBD 患者の手術検体を用いて上皮細胞のトランスクリプトームの網羅的解析を行って疾患特異的な異常を抽出し、さらに並行して IBD 患者検体から大腸上皮のオルガノイドも作製して同様にトランスクリプトーム解析を施行し照合することで、疾患特異的 異常の中でも特に周囲の環境に依存せず不可逆的に保存されるものを抽出することで、炎症性発癌の早期の段階から 関与している可能性の高い病態を同定することを目指した。 まず CAC 患者の癌部、非癌 UC 患者、そして非 IBD 患者の手術検体から大腸上皮細胞を精製しシングルセル RNAシーケンシングを施行したところ、転写因子 PITX1 を高発現する未分化細胞集団が非 IBD、非癌 UC、そして CAC 癌部の順に増加することを見出した。UC 上皮におけるこの PITX1 の発現亢進は、UC 患者検体から樹立した大腸 オルガノイドにおいても数ヶ月にわたって保存されることから、この発現変化は炎症シグナルに対する一過性の反応 ではなく上皮細胞が自律的に記憶している長期的な機能変化を反映したものであることが示唆された。 PITX1 高発現未分化細胞の機能的特徴を明らかにすべく、PITX1 陽性細胞と陰性細胞との間でエンリッチメント 解析を施行すると、陽性細胞の上位には細胞分裂に関連するパスウェイが挙がったのに対して、陰性細胞の上位にはアポトーシス誘導に関連するパスウェイが挙がったことから、PITX1 は細胞増殖の促進ならびにアポトーシスの抑制に関与している可能性が示唆された。PITX1 発現と細胞増殖ならびにアポトーシスの活性変化との関連性を確認すべく、PITX1 高発現 UC 患者由来オルガノイドに CRISPR/Cas9 法で PITX1 欠損処理を施し、CFSE およびアネキシン V標識による蛍光強度変化を評価したところ、PITX1 欠損により CFSE ならびにアネキシン V の蛍光強度が共に有意に上昇したことから、PITX1 の発現亢進と細胞増殖活性亢進ならびにアポトーシス活性抑制との直接的な因果関係が 示唆された。 坂坂口口 大大起起 坂口 大起109
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