上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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1カルボニルストレスに着目した精神疾患発症機序の解明〇〇大学 〇〇科新井 誠上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 106リリゾゾリリンン脂脂質質をを標標的的ととししたた精精神神神神経経疾疾患患のの治治療療基基盤盤構構築築 リゾリン脂質を標的とした精神神経疾患の治療基盤構築川川崎崎医医科科大大学学 医医学学部部 薬薬理理学学教教室室 川崎医科大学 医学部 薬理学教室脊髄液ではリゾリン脂質代謝異常が認められ、リゾリン脂質が病態に強く関与することが示唆されている(Omori W et al. Int J Neuropsychopharmacol 2021)。また、16p11.2 欠失症候群患者由来細胞ではリゾリン脂質レベルの変動が報告されている(Tomasello DL et al. iScience 2021)。16p11.2 領域にコードされるグリセロホスホジエステラーゼ 7(GDE7)、あるいは脳で高発現するファミリータンパク質 GDE4 はリゾリン脂質代謝酵素であり、リゾ ホスファチジン酸(LPA)を産生することが知られているが、精神神経疾患との関連は不明である。また、GDE4 やGDE7 の発現制御機構については、リポ多糖や低酸素環境により発現が誘導されること(Ohshima N et al. J Biol Chem 2015, Shimizu Y et al. Lipids 2023)や、ストレス応答性の転写因子 FOXO3a の欠損マウスにおいて GDE7 発現が 低下する可能性(Beaulac HJ et al. Cell Death Dis 2021)が報告されているが、詳細な分子機構は不明である。 【【目目的的】】GDE4 や GDE7 がどのような作用機序で 16p11.2 欠失症候群を始めとする精神疾患の病態に関与するかを 調べるために、これらの酵素の発現制御機構ならびに標的受容体や下流因子を明らかにする。 【【結結果果】】GDE4 および GDE7 の発現制御機構については、小胞体ストレスに特に着目して検討した。まず、小胞体 ストレス誘導剤であるツニカマイシン、タプシガルギンあるいは DTT を培養細胞に処理すると GDE4 および GDE7の発現レベルが亢進した。これらの発現増加は PERK 阻害薬や ISRIB により抑制された。また、PERK 経路の転写 因子である ATF3 を CRISPR-Cas9 系でノックアウトすることでも抑制された。一方で野生型(WT)および GDE4 ノックアウト細胞株(KO)の小胞体ストレス感受性に大きな変化はなかった。 次に、WT および KO の細胞増殖性を、MTT アッセイおよび CellTiter-Glo アッセイを併用して評価し、創傷治癒 能を CytoSelect 創傷治癒アッセイにより評価した。その結果、WT に比べ KO では細胞増殖性が低下していたが、 創傷治癒能に有意な差は認められなかった。なお、これらのアッセイでは FBS に含有される LPA の影響を減らすために、活性炭処理済み FBS を用いた。 さらに、RNA-seq による網羅的解析の結果、GDE4 の下流因子候補を見出した。LPA の標的として LPA 受容体(1~6 型)、PPARγ、RAGE 等が報告されている。これらに対するアンタゴニストを用いて検討した結果、候補遺伝子のうち一部の発現が抑制された。 【【考考察察】】GDE4 および GDE7 は転写因子 ATF3 によって正に制御されていると考えられた。ATF3 は ATF/CREB 転写因子ファミリーに属する転写因子で、小胞体ストレスをはじめとする種々の細胞ストレスに応答し、細胞増殖・ 分化あるいは細胞死等の機能調節に関与する。GDE4 や GDE7 はリポ多糖や低酸素環境により発現が誘導されることが報告されているが、これらの細胞ストレスについても ATF3 が関与している可能性が考えられる。 また、GDE4 ノックアウトにより細胞増殖性が低下したことから、GDE4 が産生した LPA はシグナル伝達物質 として機能することが示唆された。RNA-seq やアンタゴニストを用いた実験結果からも、GDE4 が産生した LPA が 特定の受容体を介して下流因子の発現を制御している可能性が見出された。今後、さらに詳細なメカニズムを検討する必要がある。 【【発発表表】】 1) 2024 年 11 月 第 97 回日本生化学会大会、ポスター発表 2) 2025 年 3 月 APPW2025、ポスター発表 106北北風風 圭圭介介 北風 圭介【【背背景景】】近年、統合失調症、自閉スペクトラム症あるいは知的能力障害等で染色体 16p11.2 領域のコピー数変異(発症頻度 2~5 人/1 万人)が報告され、該当領域にコードされる複数の遺伝子が精神神経疾患横断的な発症リスクを増大させる因子であることが明らかとなった。16p11.2 欠失症候群では、リゾリン脂質を含む脂質代謝の恒常性が破綻することで、脳の発生や分化に異常が生じることが示唆されているが、16p11.2 領域には複数の脂質代謝酵素がコード されており、詳細な疾患発症メカニズムはほとんど分かっていない。先行研究において、うつ病や統合失調症患者の脳

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