上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 本研究の流れのイメージ図 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 105NNoonn--TTRRUU 型型肺肺腺腺癌癌のの前前癌癌病病変変のの病病理理学学的的探探索索 Non-TRU型肺腺癌の前癌病変の病理学的探索筑筑波波大大学学 医医学学医医療療系系 診診断断病病理理学学 筑波大学 医学医療系 診断病理学【【研研究究のの背背景景】】肺腺癌の発生や進行に関する分子生物学的知見が近年多く報告されているが、その多くが terminal respiratory unit(TRU)を発生母地とする TRU 型の肺腺癌である。浸潤性肺腺癌の初期病変として、腫瘍の非浸潤段階(初期肺腺癌)である異型腺腫様結節、上皮内腺癌と、初期浸潤癌である微少浸潤癌の概念が確立しているが(Noguchi M et al. Cancer 1995)、これらの初期肺腺癌の殆どが TRU 型の形質を呈する。初期肺腺癌の概念の確立後、CT検診などによる初期肺腺癌の早期発見・早期治療が可能となり、TRU 型肺腺癌の初期発生や悪性化の機序の解明が進んでいる。一方、Non-TRU 型の肺腺癌は肺腺癌全体の約 20%を占め、免疫組織化学的に TTF-1 陰性である特徴を共有 するが、形態学的・免疫組織化学的に多彩な病型が混在し(Matsubara D et al. Cancer Sci 2017, Matsubara D et al. Cancer Sci 2020)、その発生(初期病変)や進行については TRU 型の肺腺癌と比べると知見が圧倒的に少なく、早期発見や治療の手法が確立されていない。HNF4α陽性肺腺癌は Non-TRU 型の代表的な亜型で、形態学的には粘液癌、非粘液癌いずれの phenotype も呈しうる。今回我々は HNF4α陽性肺腺癌で、同一腫瘍内に粘液癌、非粘液癌、 異形成相当の成分が互いに移行するように混在する症例に着目した。これらの症例は、HNF4α陽性肺腺癌が異形成 相当の成分から粘液・非粘液癌成分へ分化する過程を見ているという仮説を立て、各成分ごとの分子病理学的な特徴を比較検討し、Non-TRU型肺腺癌の発生初期・悪性化の機序を解明することを目指した。 【【目目的的】】Non-TRU 型の肺腺癌の中でも頻度が高いとされる HNF4α陽性の肺腺癌に着目し、その肺腺癌の発生・進行に関わる分子学的機序を探索することを目的とする。腫瘍内不均一性を呈する HNF4α陽性の肺腺癌症例を対象に、 同一腫瘍内の形態学的な特徴の異なる成分について、それぞれ病理学的・分子生物学的な解析を行うことで、non-TRU型の肺腺癌の発生・分化に関与する遺伝子を解明する。 【【方方法法】】(1)Laser microdissection(LCM)で、同一腫瘍内に存在する病理学的特徴の異なる各成分を別個に抽出し、コントロールとした RNA シークエンスを行った。(2)各成分で発現の異なる遺伝子について、TRU 型肺腺癌、non-TRU 型肺腺癌での発現および腫瘍内での発現の分布を免疫組織化学的に確認した。 結果:(1)1 サンプルあたり 4 成分、計 2 サンプルの症例で LCM を行った。RNA 濃度:11.5~38.3 ng/ml、RIN 値:2.4~2.5 と全てのサンプルが解析可能であった。(2)異形成相当の成分と非腫瘍部で発現の異なる遺伝子 408 個 (p<0.05)について公共データベース(NCBIデータベース、Human protein atlas)で機能や正常臓器における発現パターンを調べた。異形成で複数の胃腸上皮マーカーが上昇し、肺胞上皮マーカーは低下していることが確認された。408 個の遺伝子の中で、肺腺癌で発現や機能が報告・検討されておらず、消化管上皮で発現することが知られる遺伝子に着目し、96 例の肺腺癌症例(TRU、Non-TRU 型いずれも含む)を用いた免疫組織化学で検討したところ、Non-TRU型肺腺癌で特異的な発現を呈し、更に一部は Non-TRU 型の異形成相当の成分に限局して発現が見られた。 【【考考察察】】HNF4α陽性肺腺癌における異型が比較的弱い異形成相当の成分で既に複数の胃腸上皮マーカーが発現して いたことから、HNF4α陽性肺腺癌における胃腸上皮形質の獲得が癌の初期発生そのものに関与していると考えられた。一方、異形成相当でのみ発現し、癌では発現が消失する遺伝子については発癌抑制に寄与している可能性も考えられた。今後は各候補遺伝子の発現と予後を含めた臨床病理学的特徴の検討や、細胞株による機能解析を進めたい。 河河合合 瞳瞳 河合 瞳105

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