上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 103生生理理的的なな細細胞胞競競合合現現象象をを担担うう制制御御因因子子のの網網羅羅的的探探索索 生理的な細胞競合現象を担う制御因子の網羅的探索東東京京大大学学 大大学学院院薬薬学学系系研研究究科科 細細胞胞情情報報学学教教室室 東京大学 大学院薬学系研究科 細胞情報学教室【【背背景景・・目目的的】】上皮組織は、がん変異細胞や不良細胞を組織から選択的に排除する「細胞競合」により自身の構造・ 機能を最適化する。この分子機構の解明は、上皮組織の自律的な恒常性維持機構の理解に繋がる研究課題である。 しかし、細胞競合を駆動する分子基盤の全貌は特に哺乳類において不明な点が多い。最近我々は哺乳類細胞を用いて、がん変異細胞から分泌される FGF21 が細胞競合を誘導することを発見し、液性因子による新たな細胞競合機構を提唱した(図)。さらに最近、正常マウス 8 週齢の肝臓において FGF21 を高発現する肝細胞が 3-4%程度まばらに存在することを発見した。この結果は、定常状態でも内在的にストレスを受けた不良細胞やがん変異細胞などが FGF21 を発現上昇して細胞競合により排除されることで肝臓の恒常性が維持されている可能性が示唆される。実際、高脂肪食負荷により肝臓がんを誘導すると FGF21 欠損マウスでは腫瘍形成が顕著に亢進することが報告されており(Singhal et al., Mol. Metab., 2018)、FGF21 による細胞競合の破綻によりがん変異細胞の蓄積及び発がんが誘導される可能性がある。そこで本研究では、ストレスを受けた不良細胞やがん変異細胞で FGF21 が発現上昇して細胞競合により排除される ことで、腫瘍形成が抑制され組織恒常性が維持されるか検討した。 【【方方法法】】正常マウスに飢餓や発がん刺激(Diethyl nitrosamine:DEN)等を処置して、マウス肝臓で FGF21 が発現上昇するか免疫組織化学染色により検討する。また、ハイドロダイナミックインジェクション法により、肝細胞集団の一部で FGF21 を過剰発現し、FGF21 を発現した肝細胞が排除されるか検討する。さらに、FGF21 ノックアウト マウスにおいて、DEN処置等による発がん刺激により腫瘍形成が亢進するか検討する。 【【結結果果】】マウスに 2 週齢から 5 週齢まで DEN を毎週腹腔内投与すると肝細胞の FGF21 が発現上昇した。特に、一部の細胞で FGF21 を高発現する細胞が生じる様子が観察された。また、ハイドロダイナミックインジェクション法に より、肝細胞集団の約 20-30%に FGF21 を過剰発現させたところ、日数経過とともに FGF21 発現細胞が組織から 排除されることが示された。さらに、DEN と TAA による肝臓がん誘導モデルにおいて、FGF21 ノックアウトマウスでは正常マウスと比較して腫瘍形成が亢進した。 【【考考察察】】DEN の処置により肝細胞に DNA ダメージ等を誘導すると、FGF21 が発現上昇することが示された。FGF21を過剰発現した肝細胞が組織から排除されたことから、不良細胞やがん変異細胞では FGF21 が発現上昇することで 細胞競合により肝臓から排除される可能性が示された。重要なことに、FGF21 ノックアウトマウスでは発がん刺激による腫瘍形成が亢進したことから、FGF21 による細胞競合が腫瘍形成を抑制している可能性が示唆された。以上より、FGF21 が肝臓の内在性ストレスマーカーとして働き、生理的な細胞競合を介して肝臓の恒常性維持機構に働いている可能性が示唆された。 【【発発表表】】 1) 2024 年 7 月 第 76 回日本細胞生物学会大会、シンポジウム口頭発表 2) 2024 年 11 月 第 97 回日本生化学会大会、シンポジウム口頭発表 現在の所属:東京科学大学 総合研究院高等研究府 細胞情報学研究室小小川川 基基行行 小川 基行1032 . FGF2 1 が周囲の正常細胞を 誘引する3 . がん変異細胞が物理的に圧迫さ れ、細胞死によ り 排除さ れる細胞競合のモデル図 1 . FGF2 1 が分泌さ れる正常細胞がん変異細胞
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