上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 低食物繊維食が腸内細菌叢および腸炎に及ぼす影響 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 89炎炎症症性性腸腸疾疾患患ににおおけけるる食食事事――腸腸内内細細菌菌のの相相互互作作用用のの役役割割 炎症性腸疾患における食事—腸内細菌の相互作用の役割大大阪阪大大学学 免免疫疫学学フフロロンンテティィアア研研究究セセンンタターー 免免疫疫微微生生物物学学 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫微生物学【【背背景景・・目目的的】】炎症性腸疾患(IBD)は、未だ今治療法の見つかっていない慢性炎症性の消化器疾患であり、遺伝要因に加えて、食事や腸内細菌といった環境因子が病態に関与することが報告されている(Sugihara et al. Front Immunol. 2017)。中でも、欧米型の食事が IBD の発症や悪化に関連することが、臨床・基礎研究の両面から明らかにされて いる。最近では、こうした食事が腸内細菌叢を変化させることが注目されており、高脂肪食などが Enterobacteriaceae(大腸菌科)の増加を促すこと、さらにその中でも接着性侵入性大腸菌(AIEC)の増殖が顕著であることが示されている(Martinez-Medina et al. Gut. 2014)。しかし、食事がどのように AIEC の増加を引き起こすかというメカニズムは不明である。そこで本研究では、欧米食の特徴である「低食物繊維食」に着目し、その摂取が AIEC の定着および 腸炎に与える影響を明らかにすることを目的とした。 【【方方法法・・結結果果】】まず、通常食と低食物繊維食を与えたマウスの腸内細菌叢を 16S rRNA シーケンシングで比較した ところ、低食物繊維食ではムチン(腸粘液)を分解する細菌が顕著に増加していた。さらに、このムチン分解細菌の 優勢に伴い、腸粘液バリアが損なわれていることが確認された。ムチン分解細菌は AIEC と栄養ネットワークを形成し、AIEC の定着を促進することが知られている。そこで次に、ムチン分解細菌と AIEC を無菌マウスに定着させた ノトバイオートマウスを作製し、AIEC の遺伝子発現を RNA シーケンシングで解析した。その結果、ムチン分解細菌の存在下では、AIEC のエタノールアミン代謝関連遺伝子群(eut オペロン)の発現が著しく上昇していた。 エタノールアミンは細胞膜の構成成分であり、AIEC はこれを利用して増殖できる。eutR 遺伝子を欠損させ、 エタノールアミンを利用できない AIEC 変異株を作製したところ、通常の培地では野生株と同様に増殖したが、 エタノールアミンのみを炭素源とした培地では増殖が著しく抑制された。また、ムチン分解細菌を定着させたマウスに野生株と変異株を同時に投与して競合させた実験では、変異株は野生株に比べて有意に腸管定着が低下した。さらに、この野生株は腸炎を悪化させたが、変異株ではその効果は見られなかった。以上の結果より、低食物繊維食によって 増加したムチン分解細菌が、AIECのエタノールアミン代謝を介して定着と腸炎悪化を促すことが明らかとなった。 【【考考察察】】これまで、AIEC が共生細菌との栄養ネットワークを通じて腸管に定着することは示されていたが、その具体的なメカニズムは不明であった。本研究により、ムチン分解細菌の存在下では AIEC がエタノールアミンを利用して 腸管に定着し、腸炎を悪化させることが示された。この成果は、IBD の病態において食事—腸内細菌相互作用の重要性を明確に示すものであり、将来的な栄養介入の新たな戦略につながる科学的エビデンスとなることが期待される。 【【発発表表】】 1) 2024 年 6 月 第 76 回日本ビタミン学会、口頭発表 杉杉原原 康康平平 杉原 康平89A IECムチン 分解細菌ムチン 分解高高食物繊維食ムチン 分解細菌腸管恒常性の維持低低食物繊維食A IECエ タ ノ ールア ミ ン腸炎の悪化

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