上原記念生命科学財団_研究報告集vol39_デジタルブック用
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上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) AAD マウスモデルの組織像 81時時空空間間的的単単一一細細胞胞解解析析にによよるる大大動動脈脈解解離離発発生生機機序序のの解解明明 時空間的単一細胞解析による大動脈解離発生機序の解明東東京京慈慈恵恵会会医医科科大大学学附附属属病病院院 病病院院病病理理部部・・医医学学部部医医学学科科 病病理理学学講講座座 東京慈恵会医科大学附属病院 病院病理部・医学部医学科 病理学講座【【背背景景とと目目的的】】急性大動脈解離(acute aortic dissection:AAD)は血管壁の恒常性破綻と血圧上昇により発症しうる致死率の高い循環器救急疾患であり、生活習慣病や加齢などがその危険因子として知られている。我々の研究室では、これまでに lysyl oxidase 阻害剤であるβ-aminopropionitrile monofumarate(BAPN)投与後にアンギオテンシンⅡ(AngⅡ)を持続投与することにより、24 時間以内に全例で劇的に AAD を発症する新たなマウスモデルを作製している。さらに、生体内ヒアルロン酸(hyaluronan acid:HA)分解に中心的役割を果たす新規糖鎖分解酵素としてHYaluronan-Binding protein Involved in hyaluronan Depolymerization(HYBID)を見出し、ヒト変形性関節症の骨破壊における HA 分解に必須であることを実証した。動脈壁は、HA と他の分子がからみ合い架橋されて形成されるextracellular matrix(ECM)中に、細胞が埋め込まれる形で形成されている。HA 代謝はアテローム性動脈硬化における平滑筋細胞の増殖・移動に深く関与することが報告されており、AAD における大動脈壁リモデリングにおいてもHA 代謝は重要な役割を示すことが推測される。本研究では、空間的遺伝子発現解析技術を用いて我々独自に開発したAAD マウスモデルを解析するとともに、動脈壁における HA 代謝に着目し、AAD の病態解明に挑むことを目的とする。 【【方方法法・・結結果果】】 1)AAD マウスモデル作製と AAD 組織を用いた時空間的単一細胞解析:本項目では、AAD 発症過程の各時相(正常、中膜嚢胞性壊死、AAD)におけるマウス大動脈組織を用いて、空間的遺伝子発現解析(Visium, 10xGenomics)を遂行し、AAD 発症に関わる分子の同定を行った。AAD 動脈壁で高発現する細胞集団では、metascape 解析において ECMリモデリングに関わる分子が多く含まれていることが明らかとなった。 2)Hybid KO マウスを用いた HYBID-HA 分解系による AAD 発症機序の解明:本項目では、新規 HA 分解酵素である HYBID を欠損したマウスを用いて AAD マウスモデルを作製した。Hybid KO マウスでは野生型マウスと比較し、BAPN 投与による死亡に抵抗性を示すとともに、Hybid KO マウスでは、解離を来した大動脈壁に HA 沈着の増加が認められ、HYBID-HA 分解系抑制に伴う HA 代謝異常が中膜平滑筋細胞の形質変化や大動脈壁破綻に寄与している可能性が考えられた。現在 HYBID 阻害活性を有する植物由来抽出物を野生型マウスに予防的投与することにより、AAD発症予防効果を有するかどうかについても検討を進めている。 【【考考察察】】AAD は中膜嚢胞性壊死や動脈硬化性病変の中膜への波及など、その発症に大動脈中膜の組織リモデリングが基礎にあることは明らかであるが、これまで AAD の適切な実験動物モデルがなかったことから、その発症機序に関わる研究は十分に進んでいない。また、AAD の根本的治療法は外科的手術しかなく、予防医薬についてもほとんど開発されていないのが現状である。本研究では、AAD 発症に関わる新たな分子を同定するとともに、HYBID-HA 分解系に着目し AAD の病態解明を行っている。本研究成果は、AAD の発症機序解明および大動脈壁の ECM 代謝の観点から潜在的な新規予防医薬を探索する点においても意義があるものと考えている。 下下田田 将将之之 下田 将之81

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