上原記念生命科学財団研究報告集, 39(2025) 図1.合成した重水素化脂肪酸および脂肪酸への 13C 導入の例 上原記念生命科学財団研究報告集, 39 (2025) 75同同位位体体をを活活用用すするる脂脂質質・・脂脂肪肪酸酸のの分分子子ププロローーブブのの創創製製 同位体を活用する脂質・脂肪酸の分子プローブの創製静静岡岡県県立立大大学学 薬薬学学部部 医医薬薬品品製製造造化化学学分分野野 静岡県立大学 薬学部 医薬品製造化学分野【【目目的的】】脂質や脂肪酸はエネルギー源、生体膜の構成要素、情報伝達物質などの多様な機能を示します。分子構造のわずかな違いにより多様な生物活性を示しますが、近年様々な疾患への関与が示唆され、その分子構造と機能との間の関係が注目されています。例えば、「トランス脂肪酸」は構造によらず十把一絡げに悪者とされていますが、二重結合の数、位置、異性化の度合いによって多種多様な種類が存在します。わずかに異なるだけの分子構造とその生物活性・機能との関係性はまだまだ未解明と言えます。分子構造との相関を議論するに必要な分子プローブがなかったことが大きな理由と考えられ、これに対して同位体を活用する方法論を開発することを目的とします。 【【方方法法おおよよびび結結果果】】我々は脂肪酸に共通のカルボキシ基を起点として 4 つの重水素を位置および数選択的に導入する重水素化プロセスを開発しました [Hama, K.; Takita, R. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 22002222, 61, e202202779]。本反応は基質一般性が高く、汎用試薬のみを用いて操作も比較的簡便です。生体内で代表的なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)が本重水素化脂肪酸を含む場合、MS/MS 解析のプロダクトイオンとして重水素化ホスホコリンが選択的に観測されます。したがって、対象とする脂肪酸を含むリン脂質を選択的に追跡し、生成した代謝物を網羅的に解析可能となります。本方法論を活用して、各種トランス脂肪酸および対応するシス体の重水素標識体をグラムスケールにて合成しました。これら標識体を用いて、あまり検討されてこなかったリノエライジン酸(trans-18:2-d4)について、リノール酸(cis-18:2-d4)との比較によって検討を行ないました。ヒト血小板を用い、総脂質画分を抽出し、LC-MS/MSを用いて分析しました。その結果、リノエライジン酸(trans-18:2-d4)はリノール酸(cis-18:2-d4)と比較して PC16:0-trans-18:2-d4 として高度に蓄積していたこと、そして、リノール酸(cis-18:2-d4)で処理した血小板ではその酸化代謝物である HODE-d4 を含む PC が効率的に産生されていたことが明らかになり、trans-18:2 とcis-18:2 の活性化血小板における代謝経路が異なることがわかりました。さらに活性化血小板におけるトランス脂肪酸の代謝に関して、加えた重水素化脂肪酸の構造の違いによる、合成される PC における位置選択性の違いを明らかにしました。本重水素化脂肪酸を用いることで、分子構造のわずかな違いによる代謝経路の差異を詳細に追跡可能であることを実証しました。 脂質の代謝経路として重要なβ酸化については重水素化脂肪酸だけでは標識化合物として不十分であると予想されます。そこで、脂肪酸類を 13C によって標識する方法論の開発に取り組んでいます。多様な脂肪酸へ適用可能なプロセスとすべく、13C 導入にあたっても同位体交換反応を用いることとしました。脂肪酸の炭素同位体交換反応を脱炭酸シアノ化、特にラジカルシアノ化反応に着目しました。また、13C 源として最も入手容易な試薬の一つは 13C ラベルされたシアン化カリウム(K13CN)であり、これを用いたラジカルシアノ化反応用のシアノ化剤の合成法を開発することとしました。シアン化カリウムから系中にて塩化シアンを発生させ、それをスルフィン酸ナトリウム塩と反応させることで様々なスルホニルシアニドを効率よく合成できる方法を初めて開発しました。実際、K13CN を用いて、13C 標識されたp -トルエンスルホニルシアニドが効率的に合成できました。現在これを活用することで、13C を導入するラジカルシアノ化反応の開発を行なっています。検討においてスルホニルシアニドの構造が反応性や副反応の抑制に寄与することを見出しており、開発した合成法を鍵として、脂肪酸類への 13C 導入反応の実現を目指します。 【【謝謝辞辞】】本研究の共同研究者は、帝京大学薬学部 濱 弘太郎 准教授、静岡県立大学薬学部 近藤 健 助教です。 滝滝田田 良良 滝田 良75
元のページ ../index.html#103